• 「アンフェア」原作シリーズ最新刊発売!作者・秦建日子が語る〈雪平夏見〉との10年

    2015年08月17日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    警視庁捜査一課の検挙率ナンバーワンであり、バツイチ、子持ち、大酒飲み、そして“無駄に”美人―。

    作家・脚本家・演出家として活躍する秦建日子さんが生み出した型破りな女刑事・雪平夏見。彼女を主人公とする待望のシリーズ最新作『刑事 雪平夏見 アンフェアな国』が、4年ぶりに刊行された。またシリーズ第1作の『推理小説』を元に映像化された「アンフェア」の映画完結編アンフェア the endも9月5日に全国公開される。

    アンフェアな国
    著者:秦建日子
    発売日:2015年08月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,782円(税込)
    ISBNコード:9784309023960

    シリーズ開始から10年。小説・映像と長きにわたって人々を魅了し続けている〈刑事 雪平夏見〉とは。秦さんにお話を聞いた。

     

    きちんと歳を取った雪平を

    秦さんの小説デビュー作でもある『推理小説』が発売されたのは、2004年12月。以来、ひとりのヒロインが10年にわたって小説・映像双方で描かれ続け、新作のたびに話題となってきた。それも、まずは「雪平夏見」というキャラクターの力があればこそ。彼女はいかにして形づくられたのだろうか。

    「『推理小説』は小説としては処女作だったので、主人公は自分の好きなタイプの女性がいいなと。そうでないと長い時間付き合えないですから(笑)。カッコイイなと思える女性でやっていこうとスタートしました」

    ひとたび事件が起これば1日20時間は聞き込みに歩き回り、残りの4時間は酒を飲み倒す。捜査への尋常でないのめり込み方と軽々と一線を踏み越える危うさに、優秀さは認めつつも誰も雪平とはコンビを組みたがらない。唯一、彼女を慕い、全力でフォローする相棒の安藤を除いては。

    未成年を含む被疑者を2度射殺したことで、家庭は崩壊。やがて雪平の関係者をも巻き込んだ連続殺人事件が起こる。その事件で雪平は左腕が麻痺するほどの重傷を負い、娘の美央とも引き離されてしまう。

    腕に残った麻痺のため一度は現場を離れ、警視庁警務部監査官室へと異動になった雪平だが、またもや凄惨な事件が身近で発生。彼女を捜査へと引き戻す。

    そして第5作となる『刑事 雪平夏見 アンフェアな国』である。

    読み始めてまず気づくのが、雪平の明らかな「変化」だ。

    「長く書いているシリーズなので、いつまでも『推理小説』の頃の雪平のままではいられないと思いました。書き手である僕も10歳歳を取りましたし、世の中もいろいろと変わってきた。物語の中で雪平も自然と歳を重ねて、変わらない部分と変わった部分があると感じています。なので、本作でも人としてきちんと歳を取っている雪平夏見を書きたいなと。そもそも友人がいるというのも、良い歳の取り方をしているからこそではないでしょうか」

    冒頭では、雪平が監査官室時代の同僚や美央の親権問題を担当する女性弁護士と食事をするシーンが描かれる。すべてを捜査に捧げてきた雪平が女性同士の他愛のないおしゃべりを楽しむ姿に、彼女を知る読者は少なからず驚くのではないだろうか。

    とはいえ、穏やかな日々はそう長くは続かない。片腕が動かないままにもかかわらず、今度は激務の新宿署組織犯罪対策課への不可解な辞令が下る。そして彼女の元にかかってきた、管内で起きた外務省職員轢き逃げ事件の再捜査を依頼する電話。それは冤罪と、警察のずさんな捜査を示唆するものだった。

    独自に捜査を始めた雪平を、職域を超えてサポートしようとするのは“チーム雪平”の面々。共に難事件を解決してきた彼らとの絆も、時をかけて深めてきたものだ。しかし計画殺人を確信した雪平への警告に、その仲間が犠牲となってしまう。

    やがて事件の根が韓国にあると確信した雪平は、彼らの思いを胸に単身韓国に向かう。彼女がその地で突き止めたあまりにも哀しい事件の真相とは―。

     

    キャラクターの動くままに

    海を越えての捜査というスケールの大きな作品になった本作だが、「意図してこうなったというよりは、雪平夏見というキャラクターが自分で動いてこういう話にしてくれました」。

    「そもそも僕は小説を書き起こすときに、プロットは一切書かないんです。自分が読みたい小説を、最初のシーンからキャラクターが動くままに書いていく」

    しかし本シリーズだけみても、伏線が幾重にも張り巡らされ、複数の謎が絡み合うなど構成の緻密さも読みどころのひとつ。冒頭や途中に挿入される謎めいたシーンが物語に奥行きを与え、ラストに向かってパズルのピースのように収束していくさまは、快感でさえある。

    「書き進めてゆくうちに自然とはまることが多いです。あらすじを書いて、そのあらすじ通りに小説を起こしていくのは退屈なんです。その代わり、好きなように書き始めて3分の2まで来てダメでしたと全部捨ててしまった経験も何度もあります。それでもこういう話だからここに伏線を張ってといった計算はしないですね」

    「あらすじは筋でしかないので、それをはじめからカッチリ決めて、キャラクターが違うところに行きたがっているのに〈いやいやあらすじはこっちだからね〉とそこにはめ込むような作り方は美しくない。それよりはその世界で生きている人たちのキャラクターをもっと大事にしたい。それに沿って書いていって、最終的に〈どんでん返しがありませんでした〉となっても、そのキャラクターがきちんと生きていれば、僕は小説としておもしろいと思うんです」

    まさにキャラクターが作者の中で生きている。それを象徴するようなこんなエピソードも。

    「個人的にはこのシリーズは前作でひとつ区切りがついたような気がしていました。ただ2年、3年と経つうちに、雪平のほうから〈そろそろまたきちんと歳をとってきたよ〉と言われた気がして、〈どうももう一回書けということみたいだな〉と(笑)。シリーズだから定期的に出さなければと無理やり作るのではなくて、機が熟すためには、4作目から5作目の間にこのくらいの時間が必要だったのでしょう」

    デビュー作を依頼された時から、ミステリーではあっても謎解きを主にしたいわゆる推理ものではなく、人間ドラマを念頭に置いていたという秦さん。

    「こんなことをいうと怒られるかもしれないですが、一つ一つの事件を描きたいわけではないんです。どんでん返しをしてやろうという発想もない。ある意味優秀だけれども、ある意味不器用で、他人から見ると実に困難な人生を歩んでいる雪平という人がどういうふうに歳をとっていくのか。彼女の生き方が際立つような事件を用意したいと思っていました」

    「自分が悪役だと思っている人はいないし、誰もが自分の物差しを持って生きている」。だからこそ本作に登場する人物たちも、(良くも悪くも)揺るぎないものを身の内に秘めている。その人間性のぶつかり合いが緊張感のあるドラマを創り出し、読者の心に深い陰影を残すのだろう。

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