• 黒後家蜘蛛の会 2

    「氷菓」映画化!著者・米澤穂信が執筆に行き詰まったとき、片づける「宿題」とは?

    2017年11月03日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    『氷菓』を皮切りに現在6作刊行されている、米澤穂信さんの青春学園ミステリ〈古典部〉シリーズ。TVアニメも好評だった本シリーズは、このたび山﨑賢人さん・広瀬アリスさん出演で初の実写映画化が実現しました。

    『氷菓』が山﨑賢人・広瀬アリスW主演で実写映画化!

    11月3日(金)の公開に先駆けて、10月13日(金)には、シリーズ15年の歩みと作品世界の内部に迫る『米澤穂信と古典部』が発売。本書は、米澤穂信さん自身による〈古典部〉シリーズの解説や隠れネタ紹介、書き下ろし新作短編が収録されているほか、仕事場公開や30の質問を通して、著者の人物像も知ることができる内容となっています。

    そんな米澤穂信さんは、小説執筆に行き詰まったとき、ある“宿題”を片付けることにしているそう。今回はその“宿題”について、文章を寄せていただきました。

    米澤穂信と古典部
    著者:米澤穂信
    発売日:2017年10月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,188円(税込)
    ISBNコード:9784041060513

    書き下ろし新作短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」の他、古典部メンバー4人の本棚、著者の仕事場や執筆資料も初公開! 『氷菓』以来、米澤穂信と15年間ともに歩み、進化を続けている〈古典部〉シリーズについて「広く深く」網羅した必読の一冊。

    KADOKAWA公式サイト『米澤穂信と古典部』より〉

     

    宿題と安静

    ふと小説に行き詰まり、数時間唸って、パソコンを閉じた。こういうときは「宿題」を済ませるのがいい。長年の気がかり、とうに読んでいてもおかしくなかった、むしろまだ読んでいなかったのかと言われそうな、でも何となく後まわしになっていた心残りたちに、気負わず手を伸ばせるのはこんな時だ。

    クロフツ『製材所の秘密』は、寝しなに読もうと何度枕元に置いたかわからない。そのたびに、題名の絶妙さに微笑んだものだ。製材所の、秘密。諜報機関でも摩天楼でも、田舎の邸宅(カントリーハウス)でも幽霊屋敷でもなく、製材所に、秘密とは! この、どっしりと地に足が付いていて、かつ言われてみれば確かに謎めいた感じも漂う題名は、ずっと心に残っていた。読んでみるとさすがクロフツ、題名から受けた印象通り浮ついたところのない堅実なミステリで、一歩一歩確実に情報を集めていくさまが実にたまらない。読み耽ってしまった。

    製材所の秘密
    著者:フリーマン・ウィルズ・クロフツ 吉野美恵子
    発売日:1979年02月
    発行所:東京創元社
    価格:907円(税込)
    ISBNコード:9784488106232

    続いて、アリンガム『窓辺の老人』を読む。アリンガムというと英国四大女流ミステリ作家、けれどあいにく江戸川乱歩が編んだ『世界短編傑作集』の3巻に入っていた「ボーダーライン事件」――ミステリと現実に「why?」の吊り橋を架けるような傑作――しか読んだことがない。他の短編はどうなのかと楽しみにページを開いたらあにはからんや、探偵役の人柄が大いに気に入ってしまった。控えめで、頼り甲斐があり、困っている人を見過ごしにはせず、だけど根っからの善人と言い切るにはどこか奇妙な影が漂う職業不詳の英国紳士、キャンピオン氏。「氏」がつくのが、またいいではないですか。そして「犬の日」は、私の心の中の犬短編リストにはっきり刻まれる好編だった。

    窓辺の老人
    著者:マージェリー・アリンガム 猪俣美江子
    発売日:2014年10月
    発行所:東京創元社
    価格:950円(税込)
    ISBNコード:9784488210045

    さらに手に取ったのは陳舜臣『三色の家』、これを読んでいないのは不覚であったと読み進めるが、なんとなく、話の筋が先取りできる気がする。陳舜臣は好きだから小説づくりのパターンが見えるようになったのかと思ったけれど、もちろんそんなわけはなく、これは以前に読んだことがあったのだ。宿題をやるつもりで、思いがけず復習をしてしまった。開戦前夜の神戸で、日本の商人と華僑たちがそれまでと変わらず信用を土台に商売をする、その様子は何度読んでもいいものだ、とこれは言い訳。高木彬光『わが一高時代の犯罪』も読み返したくなった。

    三色の家
    著者:陳舜臣
    発売日:2002年11月
    発行所:扶桑社
    価格:843円(税込)
    ISBNコード:9784594035549

    そんなこんなで読んでいるうち、なんだか寒気が背中を這い上ってきて、頭がぼんやりと熱に浮かされ始めた。まごうことなく風邪の引きはじめで、こうなるとなかなか本にも集中できない。布団に潜り込んで温かくして安静第一、こんなときはアシモフ『黒後家蜘蛛の会』が正にうってつけで、じっと目を凝らして読み込んでも楽しいが、ぼんやり知と諧謔に満ちたやりとりを眺めているだけでそこはかとなく幸せな気分になれる、希有なシリーズだ。2巻に入っている「鉄の宝玉」がやはり好きだな、ということを再確認して、明かりを消した。

    黒後家蜘蛛の会 2
    著者:アイザック・アシモフ 池央耿
    発売日:1978年07月
    発行所:東京創元社
    価格:842円(税込)
    ISBNコード:9784488167028





    米澤穂信さん米澤穂信 Honobu Yonezawa 
    1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞、14年『満願』で第27回山本周五郎賞受賞。『満願』、15年『王とサーカス』はそれぞれ3つの年間ミステリ・ランキングで1位となり、史上初の2年連続3冠を達成した。ほかに『いまさら翼といわれても』『さよなら妖精 新装版』『真実の10メ-トル手前』など著書多数。

    〈古典部〉シリーズ特設サイトはこちら

    いまさら翼といわれても
    著者:米澤穂信
    発売日:2016年11月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,598円(税込)
    ISBNコード:9784041047613
    満願
    著者:米澤穂信
    発売日:2017年08月
    発行所:新潮社
    価格:724円(税込)
    ISBNコード:9784101287843
    さよなら妖精 新装版
    著者:米澤穂信
    発売日:2016年10月
    発行所:東京創元社
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784488027681

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