• 「なるほど、そうきたか!」で始まる連作ミステリー:芦沢央『バック・ステージ』

    2017年09月23日
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    日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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    『許されようとは思いません』や『貘の耳たぶ』注目を集める、若手ミステリー作家の芦沢央さん。8月31日(木)、そんな芦沢さんの最新刊『バック・ステージ』が発売されました。

    『バック・ステージ』は、人気演出家が手がける舞台の周辺で同時多発的に起きた、4つの事件を描く連作ミステリーです。ある晩、その舞台のプロモーションを請け負う会社の新入社員・松尾は、先輩の康子がパワハラ上司の不正の証拠を探している場面に遭遇し、そのまま康子の計画に巻き込まれていきます。やがて、それぞれ別の事件で起こったはずのトラブルが、見えない糸で繋がっていき……。さまざまな謎と切ない思いが交錯し、すべてのピースがピタリとはまるラストが痛快な一作です。

    松尾と康子の掛け合いがなんとも楽しい本作ですが、2人のキャラクターはどのように生まれ、物語を動かしていったのでしょうか。芦沢さんにエッセイを寄せていただきました。

    バック・ステージ
    著者:芦沢央
    発売日:2017年08月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784041051924

     

    ゴールをスタートにしてみたら

    なるほど、そうきたか、と最後で天を仰いでしまいたくなるような本が好きだ。

    予想外なのにどこかで納得もしてしまう、けれど本を閉じてもすぐには物語の世界から出られずに余韻に浸ってしまうような物語。それは、私自身が書くときも常に目指してきた到達点だった。

    だが、今回担当編集者から「新境地を目指しましょう」と言われたとき、ふと、これをゴールに設定しなかったらどうなるんだろう、という考えが浮かんだ。たとえば、これをゴールではなくスタートにしたら――「なるほど、そうきたか」で始まる物語はどうだろう、と。

    その瞬間、スタート地点に現れたのは、白けた横顔をした青年だった。目の前の出来事をあくまでも傍観者として眺め、勝手にうなずいて天を仰ぐ。いや君は天なんか仰いでないで目の前の問題に取り組みなさいよ、と顔を戻しても、面倒くさいなとため息を吐かれる。

    これは何だろう、と面食らった。なぜなら、これまで私が物語を書くときは主人公は必ず物語の当事者で、みんな脇目も振らず、冒頭で直面する「なぜ」「どうしよう」という状況に必死で取り組んできたからだ。

    本書においても、その時点で既に書き上がっていた第一幕から第四幕はそうした物語だった。

    子どもがしていた親友の話が嘘だったとわかってざわつくシングルマザー。ほとんどつき合っているようなものだとばかり思っていたのに突然振られてショックを受ける大学生。夢の舞台に上るチャンスを手に入れたと思いきや、開演直前に奇妙な脅迫状を受け取って奔走することになる新人俳優。担当する大女優に認知症の兆候が現れ、それを何とか本人に知られないように心を砕くも思わぬハプニングに巻き込まれるベテランマネージャー。

    作者である私は彼らの奮闘を物陰からビデオカメラを回して観ている、というのが基本的な執筆スタイルだった。だが、なぜか今回、スタート地点に現れた松尾という男は、まったく自分では動こうとしない。撮っているのも、もはや動画なのか静止画なのかわからなくなってくる。おい松尾、と見かねて声をかけようとしたところで、突然現れて松尾を引きずり回し始めたのが康子だった。

    再び物陰に引っ込んでビデオカメラを構え直すと、松尾と康子は思いもよらぬ方へと走り出した。私は慌てて後を追いかける。すると、ふとカメラの端々に第一幕から第四幕の登場人物たちが写り始めたのだった。

    そう、実は本書は最初から作者が計算して構成を考えて書いていったものではない。だから、すべてが「ある一日」を描いた一本の線上に並ぶ物語であり、それぞれリンクもしているものの、あくまでも見知らぬ他人同士の話である。彼らは自分の何気ない言動が他人にどんな影響を及ぼしたのか、結局最後まで与り知らぬまま終わる。おそらく、現実においてもほとんどがそうであるように。

    けれど本書が現実と違うのは、その彼らにとっては見えない糸が読者にだけは見えるということだ。

    願わくば、その糸が描く模様に「なるほど、そうきたか」と思ってもらえたら、作者としてこれほど嬉しいことはない。

    本作のカバー裏には、本を買った人だけが読めるお楽しみ掌編「カーテン・コール」が特別収録されています。「傍観者」なだけではない松尾の魅力全開の後日譚となっていますので、ぜひ本編読了後にお楽しみください!


    芦沢 央 You Ashizawa
    1984年生まれ。千葉大学文学部卒業。2012年『罪の余白』で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。同作が2015年に映画化。他の著書に『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『許されようとは思いません』『雨利終活写真館』『貘の耳たぶ』がある。

    貘の耳たぶ
    著者:芦沢央
    発売日:2017年04月
    発行所:幻冬舎
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784344030992
    許されようとは思いません
    著者:芦沢央
    発売日:2016年06月
    発行所:新潮社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784103500810

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