• 映画「累」の原作者が描く、美醜に翻弄されるもう一人の女の物語『誘』〈松浦だるまインタビュー後編〉

    2017年08月29日
    楽しむ
    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
    Pocket

    『累-かさね-』の映画化が大きな話題となっている漫画家・松浦だるまさん。インタビュー前編では、“美醜”というシビアな問題をテーマにした『累』が生まれたきっかけから、作品に込めた思いまで語っていただきました。

    後編では、物語のキーとなる“特殊な力をもつ口紅”を遺した主人公の母親・誘を描いたスピンオフ小説『誘-いざな-』についてお話を伺います。

    ちなみに、松浦さんにとって『誘』は小説デビュー作。今回は、漫画との創作上の違いなどについても伺うことができました。

    著者:松浦だるま
    発売日:2014年12月
    発行所:星海社
    価格:1,242円(税込)
    ISBNコード:9784061399105

    世俗から隔絶され、過疎に滅びつつある辺境、朱磐村。 伝統と因習に縛られたこの地に、かつて、望まれずして生まれ落ちてしまった“醜き”容貌の少女がいた――。 「美醜」の本質に迫る衝撃作『累』で、今漫画界を席捲する松浦だるまが放つ、誰もが予想だにしなかった前日譚がここに幕を開ける。

    講談社BOOK倶楽部『誘』より〉

    前編はこちら
    人の運命をも変える“美醜” その本質を描く『累』はこうして生まれた〈松浦だるまインタビュー前編〉

     

    漫画と小説は「作り方の違い」がおもしろい

    ――今回発売された『誘』は初の小説作品ですね。どのようなきっかけで書かれたのですか。

    最初に(『累』の連載誌である)「イブニング」の担当さんからお話をいただきまして、「漫画の脇に小説を置いてみたら宣伝効果があるんじゃない? 物語を書いてみようよ」という軽いノリでした。

    それ以前に、母親の話はあまり出せないかもしれないけれど、設定しておいたほうが『累』が進めやすいから決めておこう、と話していたんです。Wordで20枚くらい書いて持って行ったその日に小説の話があったので、「奇遇ですね」と出したら、「これでいいんじゃない」と。

    そのうちに星海社の編集者の方からもお話があって。『累』のモノローグ(独白部分)を読んで、声をかけてくださったようです。

    ――250ページのボリュームがありますが、小説を書かれること自体が初めてだそうですね。

    『誘』は自然とこの長さになりました。漫画ももっと描きたいところはあって、私の場合、悩むのは削る作業なんです。小説は足していく作業だなと感じました。

    ――漫画では、具体的にはどういうところを削るのですか。

    文章が多すぎると読みにくいので台詞を削ったり、絵で説明できるところを作らないと漫画として意味がないので、絵に任せてみたり。特に『誘』は連載と違って1冊でひとつの作品として書いたので、長いからこそできることがありました。

    私は漫画でも絵にする前にまず文字にするのですが、シーンを削ることなく惜しみなく出せて、しかもそこにまた(表現を)盛っていく作業がある。作り方の違いがおもしろかったです。

     

    『誘』は著者の“趣味”が色濃く出た作品

    ――自然のざわめきや人の気配、風や光、水の感触など五感を通して沁み込んでくるような表現が印象的でした。読んでいるうちに、主人公が育った朱磐村が自分の中に広がっていくような感覚がありました。

    (朱磐村は惨劇の舞台でもあるので)それは恐ろしいことですね(笑)。

    でも、書いていて一番楽しかったのがそういう部分でした。漫画だとそれを絵で表現することになりますが、『累』の話の性質上もあり、私の絵柄だと描きづらい面があります。文章だとそういう質感が書きやすいみたいです。

    ――祭りで行われる神楽や巫女の舞、悲劇を生み出した因習、古文書の謎など、民俗学的な題材がちりばめられ、ミステリーとしての読みごたえもありました。

    以前から伝承や民俗学的な話に興味があるんです。今回『誘』を書き始めてから資料を読んでいるうちに、昔の巫女について調べるのがおもしろくなってしまいました。演劇にもつながってくるのですが、最初の巫女と言われているアメノウズメは芸能の女神であり、伝説上、日本で最初に演劇をした人物です。

    ――物語の鍵を握る「鉱石」についても詳しく書かれていて、興味深かったです。

    石も好きなんです。全部かじった程度ですが、民俗学や石など『誘』には私の趣味が濃く出ています。題材として好きなものを扱ったからこそ踏み込めた部分もあって、楽しかったです。

    伝承や民俗学的なものはある程度説明が必要になります。それを漫画で表現しようとすると、どうしても文字が多くなって読みづらくなってしまう。そういう知識系の部分も、漫画で削らざるを得ないところの一つかもしれません。

    一番やりたいのは漫画なのですが、漫画と小説、どちらにも良さがあって、自分の中にもともとあったものに没頭できたのは小説のほうですね。

     

    漫画は、より人間との距離が近い媒体

    ――「一番やりたいのは漫画」というお話が出ましたが、漫画の魅力とはどのようなところにありますか。

    絵を描くのはもちろん、漫画という媒体自体が好きなんです。漫画も小説も芸術と商業の間にあるものの一つだと思うのですが、漫画のほうが崇高ではないけれど、だからこそ人間との距離が近い。読み捨てられてしまっても、それくらいの気軽な距離であってくれるのがいいですね。

    ――『誘』を書かれたことで、今後漫画に与える影響はありそうですか。

    つながっている話なので当然なのですが、どちらも相互に影響しあっている感じがあります。累の母親がどんな人なのかということを『誘』で作り上げてしまったので、今後、『累』の物語を作る上でイメージしやすくなりました。もう逃げ場がないともいえますが(笑)。

    『誘』もこれまでの読者が手に取ってくれるのだろうなと『累』を意識して書き始めたはずなのですが、媒体が異なるので表現も自然と違ってきました。『誘』を漫画化できるかというと、おそらくできない気がします。

    読者の方には、ただ楽しんでいただけたらうれしいです。小説は漫画みたいにパラパラとめくってなんとなく内容をつかむのは難しいと思うので、読んでくださった方に、この作品は自分に合っているなと感じていただけたらありがたいですね。


    松浦だるま Daruma Matsuura
    イブニング新人賞ゆうきまさみ大賞及び宇仁田ゆみ大賞にて、共に優秀賞を受賞。2013年より同誌上にて連載を開始した『累―かさね―』が、テレビをはじめとする各メディアで絶賛され、今最も注目を集める若手漫画家としてその活躍を期待されている。『累』の前日譚を執筆した『誘―いざな―』で小説家デビューを果たす。

    累 1
    著者:松浦だるま
    発売日:2013年10月
    発行所:講談社
    価格:617円(税込)
    ISBNコード:9784063524857
    著者:松浦だるま
    発売日:2014年12月
    発行所:星海社
    価格:1,242円(税込)
    ISBNコード:9784061399105

    映画「累-かさね-」土屋太鳳×芳根京子のW主演が決定!“顔が入れ替わる”主人公と舞台女優を演じる
    『累ーかさねー』実写映画化決定!美醜に翻弄される哀しき女の物語


    common_banner_tenbo


    タグ
    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下




  • GoogleAd:007



  • 関連記事

    ページの先頭に戻る