• 人の運命をも変える“美醜” その本質を描く『累』はこうして生まれた〈松浦だるまインタビュー前編〉

    2017年08月28日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    松浦だるまさんが描く漫画『累-かさね-』が、2018年に実写映画化されます。

    現在も「イブニング」で連載中の同作は、女性の美醜をテーマにした衝撃的な内容で、累計発行部数180万部を突破している話題作です。

    主人公は、あまりにも醜悪な容貌のため、人に忌み嫌われてきた少女・累。小学校の学芸会の舞台で壮絶なイジメを受けた累は、「伝説の美人女優」である亡き母が遺した1本の口紅を手にします。

    「他者の顔を奪うことができる」という特別な力を持ったその口紅。その後累の前に現れる、圧倒的な“美”を持つ女優・丹沢ニナ。

    サスペンスフルなストーリーが描かれる『累』について、著者の松浦だるまさんにお話を伺いました。

    累 1
    著者:松浦だるま
    発売日:2013年10月
    発行所:講談社
    価格:617円(税込)
    ISBNコード:9784063524857

    ※このインタビューは、累のスピンオフ小説『誘』刊行時(2014年12月)に『累』とあわせてお話を聞いた内容を再掲載したものです。


     

    実は心に引っかかっていた、“美醜”の問題を描く

    ――主人公の累は口紅を塗って他人にくちづけし、その人物に成り代わることで美人ならではの自信と優越感を知り、執着するようになります。こうした設定はどのように生まれたのですか。

    まず、「くちづけをすると顔が入れ替わる」というアイデアを思いつきました。顔が入れ替わるということは、必然的にその「美醜」を扱ったほうがおもしろいのでは、とテーマが浮かび、粘土を付け足していくように作品の形が出来上がっていきました。

    私自身は、これまであまり美醜を意識せずに生きてきたつもりでしたが、『累』を描いているうちに、もやもやと心に引っかかっているものがあったのだと気が付きました。そのため作品も美醜の問題が色濃く出る形になっているのだろうと思います。

    累 かさね

     

    『累』は怪談の「累ヶ淵」がモチーフ

    ――怪談の「累ヶ淵」がモチーフになっているそうですね。

    はい。3巻の巻末でも触れていますが、「累ヶ淵」は醜いために殺された女性が祟るという、実話として伝わっている話です。アイデアが浮かんだ後に知ったのですが、江戸時代には一番有名な怪談だったそうです。

    今では「四谷怪談」のお岩さんのほうが有名ですが、お岩さんは毒を盛られたことで醜くなったので、少し意味合いが違ってきます。

    「累ヶ淵」の累は醜く生まれついて、そのために夫に疎まれ、殺されてしまう。やがて自分を殺した夫と6番目の妻との娘・菊に憑りついて、菊の口から恨み言を語るようになります。菊の顔でありながら、累の言葉、意思が出てくる状態が『累』の設定に近いものがあると思いました。

    ――累は口紅を使って美しい顔を手に入れながら、母親譲りの並外れた演技力で女優としての地位を築いていきます。「演劇」という舞台も、美醜の対比を際立たせる装置となっていますね。

    私自身も、中学校で演劇部に入っていました。演劇というのは誰かになる行為なので、その部分を物語にかぶせてみようと。舞台に出ている俳優さんもさまざまな顔かたちの方がいらっしゃって、それぞれに役割があります。でも、作中で取り上げたチェーホフの名作「かもめ」に登場するニーナなどは、容姿の美しさが要求される役柄です。演劇は観客に見せるものなので、美醜観とは切り離せないのです。

    ――配役においても、演技力だけでなく容貌の差が立ちはだかるということですね。

    たとえばお笑い芸人の方の、いわゆる「ブスネタ」も自分を表現する一つの方法だと思います。笑いに還元するというのは尊敬できることです。でも自分の醜さを笑いに替えられない場合は、どうしたら救われるのだろうと。

    『累』を描いているうちに思い出したエピソードがいくつかあるのですが、そのうちの一つに、学生時代に友だち同士がケンカをして、一方の子が言った「あの子かわいくないのにね」という言葉にとても驚いたことがありました。人の容姿をとやかく言ってはいけないということは、小学校のころから教わっています。でもこういう感情はどんなに教えてもなくならないし、おそらく私の中にもないわけではない。その友だちから見たら、同じように仲良くしている私はどうなのだろうと考えました。同時に、私はあまり女っぽく生きているほうではないのですが、美醜の問題は無視できないのだなと。

     

    創作は「自分に刺さってくる刃物を投げているようなもの」

    ――女性として成長していく累も、顔の醜さゆえに体の成長にギャップを感じています。口紅も女性を象徴する小道具ですね。

    私自身がいまでも女性としての自分に向き合えていないので、こういう作品を描いてしまうところがあるのだろうと思います。創作では女性観だけでなく、自分の意識下にあったいろいろなものと向き合う作業が多々あります。自分はこう思っていたんだなと気付くことが多いですね。

    ――それはとても勇気のいることのような気がします。

    すごく怖いです。自分に刺さってくる刃物を投げているようなものなので。

    ――だからこそ『累』を読むと、自分の奥底に潜む、本能のようなものと対峙する緊張感が感じられるのだと思います。

    作品には、あえて「揺らぎ」を作るようにしています。美醜も何が正しい、何が悪いとははっきり言えないものですよね。物事の良し悪しを決めてしまうのは、とても怖いことだと思っています。はっきりさせなければいけない局面もあるのでしょうが、それ以外は揺らいでいたい。漫画のキャラクターは私自身ではないし、さまざまな考えの人を作ることができます。

    答えのないものを見せるためには、多様なものを提示するしかないのではという思いもあります。物の見方は時間や人によって変わっていくものなので、私自身の口からこうだと決めつけてしまうよりも、より自由な形で表現できるのがこういう創作物なのだろうと考えています。

    ――表紙の美しさも特筆ものですね。まるで肖像画のようです。

    大学で油絵を専攻していたので、色の塗り方にもそういうタッチが出ているのだと思います。カバーを外した表紙でも遊んでいますので(“醜”の累が隠れています)、ぜひめくってみてください。

    ▼カバーをずらすと、同じ構図の、累本来の顔が現れます。

    累 カバー下画像

    後編へ続く
    映画「累」の原作者が描く、美醜に翻弄されるもう一人の女の物語『誘』〈松浦だるまインタビュー後編〉

    映画「累-かさね-」土屋太鳳×芳根京子のW主演が決定!“顔が入れ替わる”主人公と舞台女優を演じる
    『累ーかさねー』実写映画化決定!美醜に翻弄される哀しき女の物語


    松浦だるま松浦だるま Daruma Matsuura
    イブニング新人賞ゆうきまさみ大賞及び宇仁田ゆみ大賞にて、共に優秀賞を受賞。2013年より同誌上にて連載を開始した『累―かさね―』が、テレビをはじめとする各メディアで絶賛され、今最も注目を集める若手漫画家としてその活躍を期待されている。『累』の前日譚を執筆した『誘―いざな―』で小説家デビューを果たす。

    累 1
    著者:松浦だるま
    発売日:2013年10月
    発行所:講談社
    価格:617円(税込)
    ISBNコード:9784063524857
    著者:松浦だるま
    発売日:2014年12月
    発行所:星海社
    価格:1,242円(税込)
    ISBNコード:9784061399105

    〉『累』の試し読みはこちらから
    http://www.moae.jp/comic/kasane/1


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