'); }else{ document.write(''); } //-->
児童図書の出版社であるこぐま社のロングセラーに『こぐまちゃんえほん』というシリーズがあります。という話をすると、「なるほど、こぐま社だけにこぐまちゃん」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、その辺について、著者のわかやまけん先生が、41年前の雑誌インタビューの中で下記のように話されています。
こぐま社だからこぐまにしたというわけではなく、まずヨーロッパのおもちゃで一番売れているものを調べてもらったんです。(中略)それから日本のデパートの玩具売場でも調べてもらいました。すると一位がくま、二位が犬なんですね。それでくまを主人公にしようと決めたんです。
――『月刊絵本』(すばる書房盛光社)1974年10月号「特集●あかちゃん絵本」より引用
子どもたちからの「くま人気」は昔から高かったということが伺えるエピソードです。
そして、その『こぐまちゃんえほん』シリーズでもっとも人気が高いのが、シリーズ8作目の『しろくまちゃんのほっとけーき』(1972年)です。
本作は、しろくまちゃんがお母さんと一緒にホットケーキをつくり、友達のこぐまちゃんを呼んでふたりで食べるというシンプルな内容なのですが、このシリーズに共通する「子どもあるある」シーンが非常に有効に使われています。それは3場面の「卵を落として割ってしまう」シーンと、5場面の「ボールから小麦粉を飛び散らかす」シーンで、子どもたちはここで「しろくまちゃん、ちゃんとホットケーキを作れるのかな?」と身構えます。そしてそれが、続いての6場面の見開き(左右両ページを使って一場面にすること)による、あの「ホットケーキ完成へのプロセス」シーンを劇的なものにするのです。素晴らしい緩急。
そして、シリーズを通して読むと気付くのですが、『こぐまちゃんえほん』(左開・横書)全巻の場面構成は、前半5場面は「左側絵・右側本文」、6場面は「見開き」、後半4場面は「左側本文・右側絵」で統一されています。このことについて著者は、前述のインタビューで下記のように話されています。
(製本における)とじの都合でまん中が一枚だけ見開きの場面になるので、ここに見せ場をもってくるのも一苦労ですね。普通のストーリーのあるものの山場はもう少しうしろだし、構図のとり方でも苦労します。
あえてとじの部分のみを見開きに設定し、そこへ持っていくための苦労と仕掛けをされていいたとは……。絵本の構成の凄味を感じさせます。
ちなみに私は同シリーズでは6作目の『こぐまちゃんいたいいたい』(1971年)が最も好きです。ポイントは6場面の見開き前の5場面、こぐまちゃんが階段から落ちるシーンです。凄い切れ味ですので、ぜひ店頭でお確かめください。
※読者が選んだ年齢別絵本ブックガイド「いくつのえほん」からの一冊です。