• 「警視庁いきもの係」原作者の大倉崇裕は、なぜ本を読まない少年から“ミステリー作家”になったのか?

    2017年08月03日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    橋本環奈さん演じる動物マニアの新米巡査と、渡部篤郎さん演じる窓際警部補の凸凹コンビの活躍を描いたドラマ「警視庁いきもの係」(フジテレビ系にて日曜21:00より放送中)。本作は「動物の生態をもとに事件解決に奔走する」という一風変わったストーリーや、コミカルなやりとり、“芸能猫”のティティをはじめとするかわいい動物たちが登場することでも話題になっています。

    原作は、全4冊で刊行されている大倉崇裕さんの「警視庁いきもの係」シリーズ。こちらもキュートでユーモラスな連作ミステリーで、あわせて読めばドラマがもっと楽しくなること間違いなしの作品です。

    そのほかにもミステリー小説で数々の人気シリーズを手がけている大倉さんですが、実は「子供のころから本なんてまったく読まなかった人間」だったのだそう。今回は“ミステリー作家・大倉崇裕“を作った、本屋さんにまつわるエッセイを寄せていただきました。
    大倉崇裕大倉崇裕
    おおくら・たかひろ。1968年京都府生まれ。学習院大学法学部卒。1997年「三人目の幽霊」で創元推理短編賞佳作、1998年「ツール&ストール」で小説推理新人賞受賞。「白戸修」「福家警部補」「オチケン」「問題物件」「警視庁いきもの係」の各シリーズ、『GEEKSTER』『スーツアクター探偵の事件簿』ほか著書多数。最新刊は山岳サスペンス『秋霧』。「ウルトラマンマックス」「名探偵コナン から紅の恋歌」などの脚本、『刑事コロンボ 死の引受人』の翻訳も手掛けている。

     

    思い出の書店たち  大倉崇裕

    子供のころから本なんてまったく読まなかった人間が、ミステリー小説と出合い、今、ミステリー小説を書いている。その出合いを演出してくれた、思い出の書店を振り返ってみようと思う。

    小学生のころ、近所に葵書房という本屋さんがあった。そこで出合ったのは、二見書房がだしていた、刑事コロンボのノベライズだった。

    両親はNHKのニュースばかり見ていて、私が見たい番組はすべて禁止だった。唯一の例外が、当時、NHKで放送していた「刑事コロンボ」だった。私はコロンボに心酔した。しかし、放送は不定期で、見られるのは数ヶ月に一度くらい。今と違ってビデオもない時代で、コロンボに対する飢餓感ばかりが募っていた。それを和らげてくれたのが、ノベライズ本だ。劇中でのやり取りが文字という形で再現されており、しかも、巻末の刊行リストには、自分の知らないコロンボ作品が網羅されている。私にとって、魔法の箱のようなものだった。とはいえ、小学生の悲しさ、片っ端から購入するわけにもいかない。当時からオタク気質であった私は、毎日、学校帰りに葵書房に通い、立ち読みをした。まるまる読み切ったものもある。ミステリーとの最初の出合いとして思いだすのは、やはり葵書房の「コロンボ」だ。

    中学時代はまったく本など読まず、親が漫画も禁止したため、書店にはほとんど行かなかった。状況が変わったのは高校生のときだ。私は京都駅を経由して高校に通っていたのだが、あるとき、駅前に一風変わったビルができた。その名も「アバンティ」(今でもあり、立派に営業している)。そこの五階か六階にワンフロアぶち抜きの書店がオープンしたのである。巨大書店などまだ少なかった時代だ。当時の親友が本好きであったこともあり、一緒に帰宅するときなどは、よくその書店に付き合わされた。親友は亀岡という所に住んでいて、当時、亀岡行きの列車は一時間に一本だった。列車を逃すと、どこかで時間を潰し、次を待たねばならない。そんなときこの書店に来ると、退屈せず時を過ごすことができた。ちょくちょく付き合わされるうち、何となく本に対する興味もわいてきた。あるとき、ふと手に取ったのが東京創元社から出ていたドン・ペンドルトンの「マフィアへの挑戦」というシリーズだった。マフィアに家族を殺されたベトナム帰りの男が復讐のためたった一人で組織に立ち向かうという、血湧き肉躍るストーリーだった。全二十冊。出版社を変えてさらに二十冊ほど発売されていた。読み終えるころには、読書という習慣が身につき始めていた。

    大学は東京の目白にあった。私は山岳同好会に所属し、勉強などせず山にばかり登っていた。山に登るためには地図がいる。その地図を買う場所が、高田馬場にある芳林堂だった。週に一度は訪れていたそこで、あるとき、春陽堂書店の「江戸川乱歩文庫」を見つける。少年探偵団シリーズなどは、小学生のころ学級文庫で読んでいた。その懐かしさも手伝って、ふと手に取った。「江戸川乱歩文庫」シリーズは当時、毎月二冊ずつの刊行だった。おどろおどろしい表紙とめくるめく乱歩の世界。シリーズを読破するころ、ミステリーに対する興味が俄然、膨れあがってきた。

    とどめを刺したのは、大学内にあった書店だ。そこには、新潮文庫のシャーロック・ホームズシリーズ、同じく新潮文庫のルパン傑作集がずらりと揃っていた。

    完全にミステリーの虜となった私は、大学近くの古書店でアガサ・クリスティーと出合うことになる。

    もし親がコロンボを見ていなかったら、もし亀岡行きの列車が一時間に一本でなかったら、もし私が山岳同好会に入らず地図を必要としなかったら――。今の私は、書店での偶然の出合いでできている。

     

    【著者の新刊】

    クジャクを愛した容疑者
    著者:大倉崇裕
    発売日:2017年06月
    発行所:講談社
    価格:1,674円(税込)
    ISBNコード:9784062205665

    学同院大学で起きた殺人事件の容疑者は、クジャク愛好会の奇人大学生! だが無実を信じる警視庁いきもの係の名(迷)コンビ、窓際警部補・須藤友三と動物オタクの女性巡査・薄圭子はアニマル推理を繰り広げ、事件の裏側に潜むもうひとつの犯罪を探り当てる!? 犯人確定のカギはクジャクの「アレ」!?
    大人気「警視庁いきもの係」シリーズ待望の第4弾! ピラニア、クジャク、ハリネズミが登場する傑作中編3作を収録!

    講談社BOOK倶楽部『クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係』より)

    【「警視庁いきもの係」シリーズ】

    小鳥を愛した容疑者
    著者:大倉崇裕
    発売日:2012年11月
    発行所:講談社
    価格:802円(税込)
    ISBNコード:9784062773911
    蜂に魅かれた容疑者
    著者:大倉崇裕
    発売日:2017年01月
    発行所:講談社
    価格:821円(税込)
    ISBNコード:9784062935623
    ペンギンを愛した容疑者
    著者:大倉崇裕
    発売日:2017年06月
    発行所:講談社
    価格:842円(税込)
    ISBNコード:9784062936743

    (「日販通信」2017年8月号「書店との出合い」より転載)

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