• 「ぬか床を冷蔵庫に入れるとは、どういうお考えなのでしょうか?」クロワッサン編集長が語る雑誌づくりの日常風景

    2017年08月01日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    今年で創刊40周年を迎えた、暮らしの雑誌「クロワッサン」。ミドルエイジの女性に根強い人気を誇る同誌は、雑誌づくりの現場もまた、熱心な読者に支えられているようです。

    今回はそんな「クロワッサン」の編集長に、編集部の日常風景が垣間見えるエッセイを寄せていただきました。

     

    「ぬか床の作り方」から。  文・マガジンハウス「クロワッサン」編集長 山田聡

    「あの……読者の方から、ぬか床の作り方のことで、問い合わせというか、記事が間違いなのではないか、という電話が入っていまして……」

    編集アルバイトさんが、そう言って電話を取り次いでくれました。

    弊誌の人気特集をまとめたムック『豆と発酵食が、あれば。』に収めた、ぬか床のページへの問い合わせでした。

    豆と発酵食が、あれば。
    発売日:2017年06月
    発行所:マガジンハウス
    価格:780円(税込)
    ISBNコード:9784838752157

    このページは、料理家の方にもゲラを確認してもらい、校閲も通したもので、間違いがあるはずはないのだが……と思いながら電話に出てみました。

    電話の向こうからは、勢いのある女性の声。記事中の、ぬか床を冷蔵庫に入れて管理するということに異議があるようです。

    「6、7、8月はぬかの発酵が最も進む季節です。そんな時期に冷蔵庫に入れるとは、どういうお考えで掲載されたのでしょうか?」

    ぬか床を冷蔵庫に入れるのは今に始まったことではありません。私がクロワッサンの編集部員だった20年くらい前から、失敗しないぬか床管理の知恵としてすでに紹介されていた記憶があります。そこでもう少し、その女性の話を聞いてみることにしました。

    「200年間続くぬか床を守ってきた者としてお話したいのです」

    どうやら伝統ある旧家か、老舗の漬物屋さんの方のようです。会話を続けているうちに80代の方で、弊誌の熱心な読者でもあることがわかってきました。

    考えてみれば、200年前、ぬか床を冷蔵庫に入れるなんてことはあり得なかったでしょう。冷蔵庫でぬか床を管理するのは、長いぬか漬けの歴史で言えば、ごく最近のことだということに思い当たりました。そのことに気づいた上で、私はこう返答しました。

    「いまは、仕事を持つ女性が多く、毎日、忙しく暮らしています。それでも安心して美味しいものを食べたいと思ったときに、冷蔵庫にぬか床を入れることは、管理が楽になって理にかなっていると思います。ただ、それを優先させるあまり、常温で手間暇をかけて世話を焼くのが、本来のぬか床を育てるということだという視点が抜けていました。その点は認めます」

    すると、電話の向こうで、我が意を得たりという反応が返ってきて、200年続くぬか床をどのように手入れをし続けてきたのか、貴重な話を聞くことができました。夏をうまく越させることができないのではないかと、存続の危機に陥った年もあったとか。

    「このぬか床は、日本の食文化を背負っている。私は80代のおばあちゃんですけれど、そんな気持ちでいます」

    異議申し立ての電話がいつの間にか、和やかな会話になっていました。

    読者からの問い合わせに担当者が対応するのは、弊誌では決して珍しくありません。

    記事のテーマとは全く関係のない、登場人物の背景に写っている家具が気に入ったから、どこで買えるのか? こんな問い合わせから、励まし、お叱りなどさまざまです。

    日々寄せられる、編集部員が予想もしない問い合わせは、読者の興味関心や問題意識のありかを教えてくれます。

    クロワッサンはこの春、創刊40周年を迎えることができました。これは取材先、歴代編集長以下、多くのスタッフの尽力の積み重ねの年月です。

    同時に、熱心な読者の支え、そして誌面を読んで疑問を感じた読者からの問い合わせや意見が、知らず知らずのうちに誌面づくりに反映されている、そんな集積の40年でもあるのかもしれない――1本の電話から、そんなことを考えました。


    マガジンハウス「クロワッサン」編集長
    山田 聡―YAMADA Satoshi
    1965年山口県出身。1991年マガジンハウス入社。「クロワッサン」編集部、「ポパイ」編集部、「ダカーポ」編集部を経て、再び「クロワッサン」編集部へ。


    「クロワッサン」
    自分の価値観で暮らしを楽しむ人が、さらに生活を実りあるものにしていくための伴走者的な生活誌。テーマは「創意ある暮らしは、美しい」。8/10号(7月25日発売)は大人気の猫特集。猫の健康についても紹介。特別付録は人気猫ぽてくんのシール。

    クロワッサン 2017年 8/10号
    著者:
    発売日:2017年07月25日
    発行所:マガジンハウス
    価格:580円(税込)
    JANコード:4910206820875

    (「日販通信」2017年8月号「編集長雑記」より転載)


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