• 〈インタビュー〉幸田真音さん『天佑なり』 世界恐慌から日本経済を救った高橋是清の生涯に我々が学ぶべきこと

    2015年07月25日
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    日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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    〈幸田真音さんの『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』文庫版がこのほど発売されました。単行本刊行時(2013年6月)のインタビューをお届けします。〉

    「アベノミクス」を進める上で模範とされた人物がいる。高橋是清 ――二・二六事件の凶弾に倒れた大蔵大臣。20世紀初頭に日銀総裁、7度の大蔵大臣、首相も歴任した財政家である。幾度も日本の財政危機を救ったその功績は、現在も学ぶべきところの多い偉大なる先例だ。

    その波瀾万丈の生涯を描いた歴史経済小説『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』は、国際金融の場で活躍した自身の経験も生かし、多数の経済小説を発表してきた幸田真音さんの宿願の一作である。本作への思いを語っていただいた。

    天佑なり 上
    著者:幸田真音
    発売日:2015年07月
    発行所:KADOKAWA
    価格:691円(税込)
    ISBNコード:9784041031711

     

    百年前に日本国債を売った人

    ―安倍政権が「高橋財政」をモデルに掲げたことで高橋是清という人物は注目を集めましたが、幸田さんがこの小説の執筆を始められたのはそれよりずいぶん前ですね。

    幸田 2011年から地方新聞7紙で連載したものです。サブタイトルを「高橋是清・百年前の日本国債」としましたが、これは10年くらい前から「いつか書かなければ」と思っていたテーマなんです。

    私は作家デビューから約20年になりますが、2000年に書いた7作目の小説『日本国債』で大きな反響をいただきました。以来、日本の国債市場、日本の財政問題は自分のライフワークだと思って、いろいろな形で関わってきています。10年ほど前、財務大臣の諮問機関である「財政制度等審議会」で7年間、委員を務めさせていただきました。当時、日本国債の95%以上は日本人が買い支えていた。しかし今後は海外に国債を売っていこうという動きがあり、財務省が海外に向けて国債のIR活動を始めたんです。そのとき、「こんなふうに国債を海外で売るのは、高橋是清が日露戦争の戦費調達で行って以来のことだ」とおっしゃった方がいて。それが高橋是清との出会いとなりました。

    今から約100年も前の明治、日露戦争の時代に海外で国債を売るというのはどんなことだったのか。誰にどうやって売ったのか。そもそも、基軸通貨が英国ポンドであった当時の国際金融市場の仕組みはどんなものだったのか。ロンドンでは諸外国の国債が売買されていたのか。そういうことをきちんと調べてみたいと思ったのがきっかけだったんです。高橋是清と100年前の日本国債のことをいつかきっと書こう、そう思いました。

    それで資料を集めて準備していたときに新聞小説のお話をいただきました。地方七紙ということで、地方経済の疲弊、日本の借金問題の今後も含めて、多くの方に読んでいただきたい。そうして書き始めたのが『天佑なり』です。

     

    今に生きる是清の言葉

    ―近代歴史小説としても大変おもしろかったです。

    幸田 江戸時代となると今生きている我々日本人にとっては少し距離感がありますが、明治・大正・昭和はまだ生々しいですよね。私は是清のお孫さんに会ってお話を聞いたこともあって、「是清はまだ生きている」「これは今の話だ」と思えるような瞬間もありました。

    それに、是清の時代と現在の日本の状況はとても似ています。いくつもの共通点があるんです。関東大震災と東日本大震災。ニューヨーク発の世界大恐慌と、経済の規模は違うけれどサブプライムローン問題やリーマン・ショック、世界金融危機。国の借金の問題もそうです。日本は、幕末から明治維新のコストも含めてずっと借金と戦ってきた国ですから。そんな状況に是清はどう立ち向かったのか。

    是清はいろいろな示唆に富んだ発言をしています。国会で、あるいは国を代表して世界に向けて。金融、金利、消費拡大などについての提言は公的な記録にもたくさん残っています。驚くのは、一般の人にもわかるような言葉で話されていること。随想録や講演録、聞き書きの自叙伝が残されていて、小説の中ではそれらの言葉を是清に語らせていますが、まさに現代の我々こそがそうすべき、みたいなことが驚くほどあるんです。是清があたかも私の筆を通して今の日本人に言おうとしているのではないかと錯覚するほどでした。

    あの時代の日本人がここまで世界経済を理解し、財政に対してこういう発想ができたのはすごいと思います。不思議なくらい、全然古くない。逆に言えば、日本人は同じ問題を繰り返して、進化していないのか……。私自身も新しい発見がたくさんありました。

     

    ―財政や金融に関わる是清の業績を詳しく、わかりやすく解説しながら物語に誘ってくれるのは、幸田さんの作品ならではだと思います。そして一方で、「人間・高橋是清」を活写されているのが、この小説の大きな魅力でもあります。庶子として生まれ、仙台藩足軽の養子となり、横浜で英語を学んで渡米。苦学して帰国の後は実に様々な職を転々とし、失敗も重ねて……。その波瀾万丈ぶりに驚きながら、読み進めるにつれてどんどん立体的に現れてくる是清像にとても惹かれました。

    幸田 書いていく中でいちばん悩んだのは、「何を書かないか」。あまりにも豊かな人生で、エピソードがものすごくたくさんあって。失敗の連続ではあるけれど、本当にいろいろな経験をしている。1年2か月の新聞連載、本にして上下巻2冊という枠の中で書き切るために何を省くか、困りました。そのぐらいおもしろい人だったんです。

    是清がすごいのは、自分が苦労して得た権力や立場や収入を、他人のため、仕事のため、志のためにいとも簡単になげうってしまうこと。たとえば17歳のとき、友達の借金のために恋人と別れて九州の唐津に行き、英学校を創りますが、借金の返済が終わったら月給の減額をみずから申し出て、「その分は学校のために使えばいい」とやってしまう。また30代の頃、ゼロから特許局を立ち上げ、初代局長に就いていたにもかかわらず、自分以外に行く人がいないからと銀鉱事業で南米ペルーへ。結局、廃坑の後処理をさせられ、そのために家財をほとんど処分して、裸一貫になってしまいます。そのとき是清らしいと思ったのは、私邸を売り払って部下たちにお金を分け与えた後、粗末な長屋に引っ越しますが、それが元のお屋敷のすぐ裏。家族は近所づきあいもあって恥ずかしがったけれど、是清は全然気にすることなく「勝手がわかっていいじゃないか」。これは是清のお孫さんから実際にうかがったお話です。そういう、ものにこだわらない人だったんですね。私利私欲がなく、信念のためには自分が持っているものを平気で手放す。人間としてすごいなと思います。

    「富国強兵」と言われた時代に「富国裕民」を説いた人です。国のため、民のために何が大事かを常に考えていた、無私の人。だからこそ何かあったときには力を貸してくれる人が現れたのだと思います。

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