• 元公安の濱嘉之が描く“平成最悪の事件”!『カルマ真仙教事件』刊行開始

    2017年07月04日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    「警視庁情報官」シリーズや「ヒトイチ 警視庁人事一課監察係」シリーズなど、警察の中でも特殊なセクションを舞台にした小説で知られる濱嘉之さん。濱さんの作品は、事件捜査や組織におけるディテールから登場人物たちの心情までを描き出す、圧倒的なリアリティと迫力ある筆致で人気を集めています。

    それもそのはず、濱さんは警視庁公安部や内閣情報調査室などに所属した元警視で、現在は危機管理コンサルティング会社代表という異色の経歴の持ち主。

    そんな濱さんの最新作『カルマ真仙教事件』が3巻構成で刊行開始、上巻が6月15日(木)に発売されました。

    カルマ真仙教事件 上
    著者:濱嘉之
    発売日:2017年06月
    発行所:講談社
    価格:691円(税込)
    ISBNコード:9784062936910

    警視庁公安部OBの鷹田正一郎は絶句した。
    カルマ真仙教元信者の死刑囚が、秘かに五億円もの金を残していたらしい。
    その大金は、とある貸金庫に眠っているという。
    死刑囚とは誰なのか。それは教団の隠し財産なのか。

    二十年の時を経て、鷹田は孤独な捜査を開始する。
    平成が終わろうとする今、あの忌々しい事件の記憶を紐解き、
    カルマ真仙教と向き合う時が、再び来たのだ。

    講談社BOOK倶楽部『カルマ真仙教事件(上)』より〉

    主人公と同様、警視庁の公安部で、平成における“最悪のテロ事件”であるオウム真理教の捜査に携わっていた濱さん。その自身の経験をもとに、上巻では教団がカルト集団として暴走していく過程から、長野で起こったサリン事件までを描いています。

    事実と虚構を巧みに融合させた本作は、実際に捜査の渦中にいた濱さんならではの、思いのこもった迫真の物語。発売に際し、お話をうかがいました。

     

    『カルマ真仙教事件』は、“平成最悪の事件”を振り返る物語

    ――『カルマ真仙教事件』は、オウム真理教による一連の事件捜査に従事した、ご自身の経験をもとに執筆されたそうですね。この物語を書かれたきっかけについて教えてください。

    今上天皇が昨年の8月、生前退位の意向を示す『お気持ち』を表明されました。「平成が終わるのだな」と感じると同時に、オウム真理教の事件は、私にとっても「平成のうちに区切りをつけておかなくてはいけない問題の一つなのではないか」と思ったんです。

    ――物語は、昭和から平成へと移り変わるのと時を同じくして、カルマ真仙教が宗教団体として急速に拡大していく兆しから幕を開けます。30年ほど前の話になりますが、警察のIT化の状況ひとつとっても、隔世の感がありますね。

    ちょうどその頃IT化が進んで、警視庁のシステムは私たちが中心になって切り替えました。初代ハイテク犯罪対策センターが私たちのデスクからできたのが、1999年です。

    オウム真理教が拡大していった時期は、バブル期にも重なっています。当時が「どういう時代だったのか」についても、考えながら書き進めました。

    一方、いま社会人になったばかりの人たちは、オウム真理教事件のことを、ほとんど知らないのではないでしょうか。それでも後々、平成が終わるときに振り返ってみれば、“平成最悪の事件”といえばオウム真理教事件しかない。いずれ、あの事件について顧みる機会があると思うんです。

     

    著者だからこそ書けた本作は、まさに“ノンフィクション”ノベル!その虚実の境目は……?

    ――主人公の鷹田は、内閣情報調査室や公安という、警察の中でも情報の世界に生きる人物です。濱さんのご経歴とも重なっていて、虚実の境目が大いに気になります(笑)。鷹田の目を通して、教団の設立前から事件の背景までを見ていくことで、断片的にしか事件を知らなかったことに気づかされました。

    “オウム真理教事件”は、本当に大きな事件でした。ほとんどは警視庁の管轄になりますが、神奈川、宮崎、熊本、山梨、長野などの各県警が直接関わっています。ただ、この本の中に書いてあることは、そこで捜査に携わった人たちの大多数も知らないことだと思います。捜査をしているときは、自分のところで手いっぱいで、全体を見ることはなかなか難しいのです。

    とはいえ、本作はあくまでもフィクションです。事実に基づいて、私自身が体験をしたことを、地方公務員法に抵触しない範囲でストーリーにしています。

    ――「地方公務員法に抵触しない範囲」という線引きは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。

    公刊資料や刊行物、インターネットなどで公になっている資料はもちろん、事件に関しては裁判調書でそのほとんどが明らかになっています。そういったところには出てこない、警察内部の動きや、警察と地検との関係、県警同士の連絡・調整といったことは、“職業上知りえた秘密”には入らないので、これも問題ありません。

    警察内部の関係など、私と私の周囲しか知らないこともありますが、それは了承を得た上で書いています。

    「出動服」姿の濱さん。ワッペン服とも呼ばれ、盾やヘルメットを着けて警備をするときなどに捜査員が着用する制服だそう。これは、予備として購入した濱さんの私物。オウム真理教の教団施設「第一サティアン」への強制捜査の際、着用したもの。

     

    警察関係者からの「やっと書いてくれたね」

    ――『カルマ真仙教事件』は中巻が8月、下巻が秋の刊行予定とのことですね。中巻、下巻はどのような構成になるのでしょうか?

    中巻は、“オウムの闇”について描いています。実際の事件でいうと、松本サリン事件のあと地下鉄サリン事件が起こり、教団施設への強制捜査から警察庁長官狙撃事件へと、事実に基づき時系列で物語が進んでいきます。

    下巻は、その後の捜査によって出てきたものを書いています。取調官や、被告人となった信者について。また、逃亡していた信者が逮捕されて暴かれた部分、すべての裁判が終わっても、まだ闇の中に残ったままの部分。それらを突き詰めていった上で、「将来に対する警鐘」を入れておかなければならないと思っています。

    また、当時オウム真理教の幹部だったある人物が、「教団には1000億円あります」と豪語して、その後すぐに刺殺されます。その1000億円の行方はいまだにわかりません。ただの「口から出まかせ」かもしれないし、そうとは言い切れない部分もある。今作では、鷹田が再び事件に向き合うきっかけとして、教団の“隠し財産”という謎についても触れています。

    ――「将来に対する警鐘」とは、具体的にどのようなことを盛り込まれる予定ですか?

    時代の流れの中で、反社会勢力の状況も変わっていきます。国内最大の指定暴力団である山口組が3分割になるような、昔では考えられなかったことが起きていますし、海外の犯罪組織が関わるような、新たなタイプの事件が起きるかもしれない。オウム真理教の事件も、ひとつのカルト集団が作られて、それが利用されて捨てられた事件であったといえるかもしれないのです。

    当時、オウムに関するさまざまな怪文書が出てきたときに、それを書いたのは「教団に入り込んだ警視庁公安部のエス(スパイ)だ」といった報道もありましたが、それは全くのデマです。あの最悪の事件を防げなかったことで、公安は負けはしましたが、ある程度の名誉回復はしていかないといけない。一方、(作中で)警察を批判している部分もあるし、組織の在り方に一言いうべき部分も出てくるでしょう。

    今作に限らず、何らかのバックボーンがあるような事件を書くときに、「あのときの失敗がここに繋がっている」というようなことをさらっと書くと、当時それに関わった人から「やっと書いてくれたね」と連絡をもらったりします(笑)。それも、組織の中で20年間まっとうに仕事してきたからこそ、外に出た今、書けることなのかなと思うんです。

    執筆に使用した資料の一部。右は、麻原彰晃(松本智津夫死刑囚)が逃亡している時期に出回った怪文書。世間を騒がせた「松本サリン事件に関する一考察」と題した文書のあとに、「続編のように出てきたものです」。


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