〈書評〉熱き男たちの物語  文・末國善己

2015年07月20日
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日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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三国志でデビューし、日本の戦国ものを発表してきた吉川永青の初の幕末もの『闘鬼 斎藤一』は、新選組の斎藤一を描いている。

子供の頃、蜘蛛が羽虫を捕えるのを見て「闘い」に魅せられた一は、天然理心流の道場「試衛館」に通い、竹刀を持つと残忍になる沖田総司とは特に親しくなる。やがて道場の一行が浪士隊に参加することになり、一も京へ向かう。

著者は、人斬り集団としての新選組をクローズアップしているので、迫力の剣戟が連続する。ただ新選組の中でも一と総司は変わっていて、人を斬るだけでは満足せず、強敵と命のやり取りをすることに快感を感じたとされている。

達人の芹沢鴨と戦いたいと思っていたのに、睡眠薬を飲ませ闇討ちすると聞いて残念がり、池田屋では嬉々として人を斬る一と総司には、恐怖を覚えるほどである。

だが、一と総司は快楽殺人者ではない。一は、最新式の銃と大砲が大量殺戮するのは「争い」であり、自分と総司が愛した「闘い」とは別物と考える。敵を認め自分の命も危険にさらす「闘い」にこだわった一が、遠くから簡単に人を殺す「争い」に破れていく終盤は、戦争がますます非人道化している現状への批判とも思えた。

闘鬼斎藤一
著者:吉川永青
発売日:2015年04月
発行所:NHK出版
価格:2,160円(税込)
ISBNコード:9784140056622

植松三十里『志士の峠』は、尊王攘夷を唱える志士が大和で決起した天誅組の変を描いている。

幕府に攘夷を迫るため、天皇が神武天皇陵や春日大社を参拝する大和行幸が決まった。公家の中村忠光は、脱藩浪士たちと天皇の安全を確保するために先鋒隊を組織して挙兵、大和へ先発する。

先鋒隊は五条の代官所を襲撃して新政府の設立を宣言するが、その直後に、会津、薩摩と結んだ幕府派の公家が、朝廷から尊王攘夷派を一掃する八月十八日の政変を起こす。これによって大和行幸は中止、政争に敗れ逆賊となった先鋒隊は孤立する。尊王の志が厚い十津川郷の郷士に救いを求めることを決めた先鋒隊は、名を天誅組と改め、本陣を天ノ川辻に移す。

ここから、天誅組の逃走が始まるのだが、すぐに天誅組が逆賊になった事実を伏せて十津川郷士を集めた吉村寅太郎と、危急存亡の秋(とき)であっても信義を貫くべきと考える忠光の確執が表面化する。

大局よりも自説や面子にこだわる忠光と寅太郎の対立が典型的なように、天誅組は意志の不統一によって追いつめられていく。これは危機管理に弱く、問題点の解決より、トップや組織の防衛を優先する日本型組織の典型ともいえるので、歴史から学ぶことは多い。

だが本書は、決して悲劇ではない。どれほど敗れ、傷ついても、生きていれば再起できると考える忠光は、転落するとはい上がるのが難しい現代を生きる読者に勇気と希望を与えてくれるのである。

志士の峠
著者:植松三十里
発売日:2015年04月
発行所:中央公論新社
価格:1,944円(税込)
ISBNコード:9784120047169

伊東潤『武士の碑(いしぶみ)』は、西南戦争を村田新八の視点でとらえている。伝習隊の大鳥圭介を主人公にした前作『死んでたまるか』は、しぶとく生き抜くことの重要性を説いていたが、本書は逆に美しい死にざまがテーマとなっている。

謀略を使って征韓論を葬り去った大久保利通に激怒し、西郷隆盛が下野し、西郷を慕う薩摩藩出身者も相次いで故郷に帰った。その直後にフランスから帰国した新八は、西郷を守るため薩摩へ入る。

前半が、西郷を追い込むための大久保の謀略、中盤以降は、銃と大砲の性能と数が勝敗を決める近代戦が圧倒的な迫力で描かれており、息つく暇もないほどである。

西郷たちは、維新の理想を忘れた同志が、政府の要職を独占し、賄賂を貪る現状に激怒して決起。高潔な武士として死ぬことで、日本の魂を忘れつつある時代に一石を投じようとした。ここには経済発展と効率化のみを追求した近代日本を問い直す視点がある。本書を読むと、好景気に浮かれることが正しいのかも考えさせられる。

武士の碑
著者:伊東潤
発売日:2015年07月
発行所:PHP研究所
価格:1,944円(税込)
ISBNコード:9784569824444

(「新刊展望」2015年8月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)
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