神さまなんて「クソ食らえ!」“正義”と“武器”が少年を成長させる、早見和真『神様たちのいた街で』

2017年05月18日
楽しむ
日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
Pocket

4月20日(木)、早見和真さんの小説『神様たちのいた街で』が発売されました。

『神様たちのいた街で』の主人公は、小学5年生になったばかりの少年・征人。親友の龍之介と同じクラスになり大喜びしたのもつかの間、父の交通事故をきっかけに、父と母、それぞれが信じる「神さま」に翻弄され、当たり前だった日常が一転。つらく悲しい日々を送るようになります。

めちゃくちゃな毎日の中、頼れるのは親友の龍之介だけ。それでも征人は、懸命に自分だけの「正義」と、大切なものを守るための「武器」を見つけていきます。

デビュー作『ひゃくはち』以降、いくつもの熱い青春物語を紡いできた早見さん。本作は家族の物語であると同時に、そんな早見さんならではの、切なくもまぶしい、少年たちの成長譚でもあります。

『神様たちのいた街で』の舞台と同じ、横浜出身の早見さんですが、現在は愛媛県にお住まいです。創作の裏側から本作に対する思いまで、メールインタビューでたっぷりお答えいただきました。

神さまたちのいた街で
著者:早見和真
発売日:2017年04月
発行所:幻冬舎
価格:1,620円(税込)
ISBNコード:9784344031012

「ぼくだけはしっかりしていなければ」。

父が交通事故に巻き込まれたことをきっかけに、父と母は違う神さまを信じはじめ、ぼくの家族には“当たり前”がなくなった。ぼくは担任の先生に助けを求めたが、どうやら先生にも自分の正義があるらしい。

大人たちが信じられなくなったいま、ぼくの「正しい」の基準は、親友の龍之介だけ。妹のミッコを守ることでなんとか心のバランスを取りながら、ぼくは自分の武器を探すことにした。いつか、後悔だらけの大人にならないために――。

あの頃の“痛み”がよみがえる成長の物語。

幻冬舎公式サイト『神様たちのいた街で』より〉

 

小説家になってはじめて「俺に書かせてもらっていい?」と言った

——『神さまたちのいた場所で』は、宗教が重要なモチーフになっていますね。本作は、どのようなことから着想された物語なのですか?

わりと身近に、似た環境で育った友人がいました。僕がそのことを聞かされたのは、すでに大人になってからです。みんなの前で明るく振る舞っていた当時の彼と、その時代を「きつかった」と語る現在の彼との間に乖離があり、胸が苦しくなりました。

それと同時に、「あの頃の自分が彼に何かをしてあげられたのだろうか」とも考えました。主人公「征人」に寄り添おうとする「龍之介」は、「こうしてあげたかった」「こんなことができたんじゃないか」という僕自身の理想の形なのかもしれません。

小説家という仕事に就いて以来、はじめて誰かに「その話、くわしく聞かせてもらっていい? 俺に書かせてもらっていい?」という言葉を使いました。

——「神さま」「正義」とは何なのか。小学生の目から見るからこそ、より本質的な部分を考えさせられる気がしました。ご自身にとってはいかがでしたか?

世界にあふれる「戦争」の理由の一つに「宗教」があり、いつの時代、どの地域にある戦争も、「被害者はより無垢な人だ」という思いがあります。

形を捉えにくい戦争を、限りなくミニマムな「世界」に落とし込もうとした結果が「家族」であり、またその中でもっとも無垢な存在として「小学生」を主人公に立てようと思いました。

征人が本質を見られているかはわかりませんが、(登場人物たちの中で)彼が一番強くあったのは間違いないと思います。無力とされる人間が持てる武器や言葉、物語について、書いている間はずっと考えていました。

——『95』をはじめ、早見さんの作品は少年(青年)の成長が描かれることが多いですね。特に今回は年齢が低い、小学生を主人公にされたわけですが、執筆において気にかけられた点、苦労された点はありますか?

少年小説はずっと好きで、学生時代からいまも坪田譲治賞の受賞作は読み続けていますし、「いつか自分も」という気持ちはありました。今回は明確に主人公が少年である必然性があったので、はじめて「(小学生を)書こう」と思えました。

普段は、どんな大きな出来事に直面しても「大して成長してこなかった」自分自身を省みて、主人公たちをなるべく「成長させないように」と考えているのですが、今回の小学生である彼らは「成長するしかない」という状況に叩き込まれますし、「成長すること」こそが彼らの武器だと思いましたので、自然とそういう物語になっていきました。

「彼らが成長することに希望がある」とは、最初から思っていたかもしれません。

——龍之介はかなり大人びた少年で、征人たちに「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「スタンド・バイ・ミー」「ぼくらの七日間戦争」などさまざまな映画を教えてくれます。どれも少年の成長を描いた名作ですし、映画のストーリーが、征人たちが成長していく中でのモチーフとして使われていて、映画を知る読者はより心を動かされるのではないかと思いました。また征人や妹のミッコの心を助けるものとして本も登場します。早見さんの、本や映画に対する思いについてお聞かせください。

すべての物語が他人の人生を追体験するものなのだとしたら、よく言われる「相手の気持ちに立って考えてあげる」ための有効な手段であるのは間違いないと思っています。

とくに今回は登場する大人たちに「自分の正義」を主張する者が多く、かつ彼らの誰一人として間違ったことを言っていない。そんな中で、征人が「自らの正義」を見つけ出そうと思うのなら、当然物語に触れている少年であるはずだと思いました。作品中に出てくる映画や小説は、征人にとって龍之介に匹敵する救いの象徴であったはずです。

——征人は「書くこと」で救われていきます。これにはご自身の体験、小説に対する思いなども入っているのですか?

明確にあります。読む行為が他人の人生と向き合うことなら、書く行為は自分の人生と向き合うことなのだと思っています。(ネタバレになりますが)征人があの物語をどの時代に書き上げたかはわかりませんが、彼はきっと書くことでも切り拓いていったのだと思います。

 

「自分の考えが正しい」なんて思わない

——征人たち小学生や学校の教師、親たちなど幅広い世代の人物が登場します。特に団地で出会うブラジル人のマリアやエルクラーノは物語のキーとなるだけでなく、とても魅力的な人物です。キャラクターはどのように設定されたのですか? モデルとなった人などはいますか?

モデルはいません。「見た目で判断されがちな人がキーマンになる」と言ったら安直すぎるかもしれませんが、本質を語れる人に見た目は関係ないという思いがありました。

僕の思う「魅力的な大人」は「先入観にとらわれていない」という一点に尽きますので、彼らにそういう役割を担ってもらいました。

——マリアの「本当は自分の考えを、自分の正義を、自分の神こそを疑わなくちゃいけない」というセリフが印象に残りました。「疑うこと」「考えること」「他者の声を聞くこと」。これらに込められたメッセージについてお聞かせいただけますか?

上の答えに通じますが、これはわりと僕自身が「自分の考えが正しいなんて思わない」と言い聞かせている部分に通じます。

「自らの正義をまず疑い、自分の頭で考え、他者の声を聞くこと」にしか戦争をなくす術はないという理想も込めました。

——本作をどのような読者に読んでほしいですか?

たぶん、これは少年小説でありながら、僕自身が親になっていなければ書けなかった小説だと思っています。親として、子に自分の正義を押しつけてしまいがちな自分を戒めながら書きました。

「子どもの方がずっと本質を見ている」という思いは、小説を書こうが書くまいが、常に持っているものでした。この本を書くことは、それを確認する作業でした。

(2017.5.1)


早見和真 Kazumasa Hayami
1977年、神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。同作は映画化・漫画化されベストセラーとなる。2014年『ぼくたちの家族』が映画化、2015年『イノセント・デイズ』が第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。『ポンチョに夜明けの風はらませて』が映画化され、2017年10月から東京・新宿武蔵野館ほか全国で公開予定。他著に『スリーピング・ブッダ』『東京ドーン』『6 シックス』『小説王』などがある。

ぼくたちの家族
著者:早見和真
発売日:2013年04月
発行所:幻冬舎
価格:617円(税込)
ISBNコード:9784344420076
イノセント・デイズ
著者:早見和真
発売日:2017年03月
発行所:新潮社
価格:767円(税込)
ISBNコード:9784101206912

小説王
著者:早見和真
発売日:2016年05月
発行所:小学館
価格:1,728円(税込)
ISBNコード:9784093864404



 

あわせて読みたい

〈インタビュー〉早見和真さん『95 キュウゴー』 1995年の渋谷を舞台に青春がほとばしる最強エンタテインメント

common_banner_tenbo

Pocket

タグ
  • ほんのひきだし公式Instagram

    ほんのひきだし公式Instagram
  • 関連記事

    ページの先頭に戻る