• 『流』が“光”なら『僕が殺した人と僕を殺した人』は“影”——東山彰良の最新作は、台湾が舞台の青春ミステリー

    2017年05月11日
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    日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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    東山彰良さん寄稿『僕が殺した人と僕を殺した人』についてのエッセイ

    “20年に1度の傑作”との高評価で直木賞を受賞した『流』から2年。

    5月11日(木)に発売された東山彰良さんの『僕が殺した人と僕を殺した人』は、1984年の台湾と現代のデトロイトを舞台に描く、青春物語です。

    問題を抱えながらもたくましく暮らし、友情をはぐくんでいた4人の少年たち。しかし彼らのうちの1人は30年後、「全米を震撼させた連続殺人鬼」として逮捕されます。殺人鬼となってしまったのは、いったい誰なのか。本作はその謎をめぐるミステリーでもあります。

    『流』も台湾を舞台にした青春ミステリーではありますが、東山さん曰く『流』は“光”であり、本作は“影”を強調した作品なのだそう。

    直木賞受賞後の日々から創作の舞台裏を交え、東山さんに『僕が殺した人と僕を殺した人』についてのエッセイを寄せていただきました。

    僕が殺した人と僕を殺した人
    著者:東山彰良
    発売日:2017年05月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784163906430

     

    1984年、少年たちの光と影

    2015年に上梓した『流』が望外の評価を得、ただただ困惑のうちに過ぎ去ったこの2年間であった。昨年刊行した『罪の終わり』というSFは、『流』が世に出るずいぶんまえに脱稿していたので、今作『僕が殺した人と僕を殺した人』(以下『僕ころ』)が実質、直木賞受賞後はじめて書き上げた長編ということになる。

    受賞後は、それまでにわたしが口にしたどんな「忙しい」よりも忙しかった。一生に一度の僥倖なので、忙しいこと自体はなんら苦ではなく、むしろ楽しめたのだが、たったひとつだけストレスに感じていたのは、長編小説にとりかかる時間が思うようにつくれないことであった。嵐のような忙しさのなかでふと足を止めてみれば、1年近い時間がまるでペテンにかけられたみたいに消えてなくなっていた。その間、わたしは小説を1文字も書いていなかった。

    ここいらが潮時だと思い定めたわたしは、ローカルテレビのコメンテーターを断固として降り、こざこざしたエッセイの仕事を毅然とおことわりし、酒の誘いを冷淡につっぱね、かねてよりあたためていた物語にとりかかった。

    それは1984年の台湾を舞台に繰り広げられる、4人の少年たちの物語だ。それぞれの家庭に問題を抱えながらも、13歳の少年たちが熱くて、危険で、キラキラまぶしい台北の街を颯爽と駆けぬける。そして30年後、彼らのうちのひとりが連続殺人鬼になってしまう。モチーフとしてはけっして斬新ではないが、ようやく自分のちっぽけな世界に立ち返れたことに、わたしは忘れかけていた興奮をふたたび感じた。書く、という行為がもたらしてくれる陶酔を思い出した。わたしの居場所はここであって、ほかのどこでもない。わたしをふたたび本分に立ち返らせてくれた作品、それが『僕ころ』である。

    執筆中、ずっと念頭にあったのは、ポール・オースターの『ムーン・パレス』と『偶然の音楽』であった。私見だが、この2作はポジとネガの関係にあると思っている。つまり、作者の持つ人生観を表と裏から描いている。叶うことなら、『僕ころ』を『流』のネガとして描きたかった。わたしのよく知る台北を舞台に、わたしがあの街から学んだことを、あのころのわたしの年齢に近い少年たちに託す。そうやって、わたしはわたし自身の後悔を昇華したかったのかもしれない。わたしの後悔、それはすべてを投げうっても守りたい仲間をついぞ持ちえなかったこと。そんな奇跡はわたしの人生には訪れなかった。わたしの目はいつだって燦然と輝く友情の、その影の部分を見ていた。

    光があれば影もある。『流』は光を強調した作品だった。その意味でポジと言って差し支えないと思う。対して、『僕ころ』では影の部分をきちんと描こうと思った。だから、ネガである。表現したかったのは、影があればそこにはかならず光もあるという単純な事実。奏功しているかどうかは、はてさて、読者諸賢の慧眼に委ねるほかない。

    東山彰良 Akira Higashiyama
    1968年台湾生まれ。5歳まで台北で過ごした後、9歳の時に日本に移る。福岡県在住。2002年、「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。2003年、同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。2009年『路傍』で第11回大藪春彦賞を受賞。2013年に刊行した『ブラックライダー』が「このミステリーがすごい!2014」第3位、「AXNミステリー 闘うベストテン2013」第1位、第67回日本推理作家協会賞候補となる。2015年、『流』で第153回直木賞受賞。

    著者:東山彰良
    発売日:2015年05月
    発行所:講談社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784062194853

    何者でもなかった。ゆえに自由だった――。
    1975年、台北。偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。
    内戦で敗れ、追われるように台湾に渡った不死身の祖父。なぜ? 誰が?
    無軌道に生きる17歳のわたしには、まだその意味はわからなかった。
    台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。第153回直木賞受賞作。

    講談社BOOK倶楽部『流』より〉

    罪の終わり
    著者:東山彰良
    発売日:2016年05月
    発行所:新潮社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784103346524

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