• 若貴ブームから“横綱稀勢の里”誕生まで 「相撲界が教えてくれたこと」(文・「相撲」編集長 山口亜土)

    2017年05月08日
    楽しむ
    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
    Pocket

    19年ぶりの日本出身横綱誕生や新入幕の活躍で、“若貴ブーム”にも迫る勢いを見せている相撲界。5月14日(日)に始まる大相撲5月場所は、前売り券の即完売が大きく報じられました。3場所連続優勝のかかった横綱稀勢の里が、初日の土俵入りで『北斗の拳』のラオウの化粧まわしを着用することもあり、いま注目度はさらに増しています。

    今回は、そんな相撲の専門誌「相撲」の編集長からエッセイをお寄せいただきました。

     

    相撲界が教えてくれたこと 文・ベースボール・マガジン社「相撲」編集長 山口亜土

    縁あって平成4年から「週刊ベースボール」編集部でアルバイトをしていた私は、翌年に社員として採用され、「相撲」編集部に勤務することになった。小中学生の頃は熱心に相撲中継をテレビ観戦していたが、その後はときどき見るくらい。幕内力士の半分近くは名前がわからなかった。力士の四股名を覚えようと思っても、同じように太っていて、同じ髪型をしているわけだから、なかなか難しい。みんな同じ顔に見えてしまうのだ。

    私の初土俵は平成5年の5月場所だった。当時、相撲界は“若貴フィーバー”で、連日札止めの満員。貴花田が大関に昇進し貴ノ花と改名、次はお兄ちゃんの若花田が大関だ、と盛り上がっていた。嵐のような本場所取材は訳もわからず終わったという印象だった。

    6月になり「若貴」のいる二子山部屋に稽古取材に行った。師匠は元大関貴ノ花。私が子供の頃のスーパーヒーローだ。稽古後、緊張しながら挨拶し、名刺を差し出すと、一瞥した後にポイッと放り投げられてしまった。びっくりしていると、「この世界は名刺が通用しない世界なんだ。みんなに顔を覚えてもらえるように頑張りなさい」と肩を叩かれた。次の7月場所中、愛知県体育館内で二子山親方とすれ違ったときに、大きな声で「こんにちは!」と言うと、肩を抱き寄せられ、耳元で「親方衆に挨拶するときは、『お疲れさんでございます』って言うんだぞ」とささやかれた。そんなこともあり、二子山親方には顔を覚えていただき可愛がってもらえた。

    「相撲」編集部には新人の頃から17年間連続で在籍。自分でも気付かないうちに、すっかり“カオ”になっていたようだが、「近代柔道」編集部への異動が決まった。相撲界で鍛えられたおかげで、柔道の取材は楽だった。と言うか、選手の皆さんが非常に取材に協力的だった。柔道界にも慣れた頃、5年ぶりに「相撲」編集部に編集長として戻ることに。もう自分のことは忘れられているんだろうなと思っていたが、そんなことはなかった。

    平成27年5月が復帰場所となったが、場所前の行事で貴乃花親方と顔を合わせると、親方から「久しぶり! どうしたの?」と両手を差し出してきた。夏巡業で巡業部長の尾車親方(元大関琴風)の囲み取材を遠巻きに眺めていると、「あれっ、珍しい顔がいるなあ」と親方は私に気付き微笑んでくれた。それほど親しいわけではなかった親方も、「最近、顔を見なかったねえ。どこに行ってたの?」と声をかけてくれた。ベテラン力士や親方衆が、自分が相撲担当に戻ってきたことを喜んでくれたのが何よりも嬉しかった。

    なかなか顔を覚えてもらえない世界だが、一度認めてもらえれば、間隔が空いて戻ってきても、再び仲間として歓迎してくれる温かさがある。信頼関係を築くことが、いかに大切かを相撲界は教えてくれた。

    3年ほど前から相撲人気が復活し、現在は若貴フィーバー並みの盛り上がりで、チケットも入手困難となっている。1月場所後には19年ぶりとなる日本出身横綱・稀勢の里が誕生し、日本中が喜びに沸いた。3月場所では新横綱の稀勢の里が終盤に負傷しながらも、奇跡の逆転優勝で人気は最高潮に達したかのように思える。10年ほど前から不祥事が続き、人気が凋落していったことを考えると夢のようだ。

    スポーツ雑誌はどうしても競技そのものの人気に売り上げが左右される。現在の相撲人気がどこまで続くかわからないが、これからも現役力士、親方衆、そして相撲ファンである読者に信頼される雑誌づくりを心掛けていきたいと思っている。


    ベースボール・マガジン社「相撲」編集長
    山口亜土―YAMAGUCHI Ado
    1964年10月13日生まれ。1993年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。「相撲」編集部勤務17年、「近代柔道」編集部5年を経て、2015年4月から「相撲」編集長に就く。


    「相撲」
    あらゆる相撲ファンのニーズに応える専門誌。日本相撲協会機関誌。1952年(前身の「ベースボール・マガジン編集・相撲号」は1949年)創刊。奇数月号=展望号は注目力士の記事満載、偶数月号=決算号では本場所の15日間を振り返る。大相撲だけでなくアマチュア相撲も網羅。5月号(5月8日発売)の内容は、5月場所展望、注目力士の記事、全相撲人写真名鑑など。

    相撲 2017年 05月号
    著者:
    発売日:2017年05月08日
    発行所:ベースボール・マガジン社
    価格:1,050円(税込)
    JANコード:4910054110579


    (「日販通信」2017年5月号「編集長雑記」より転載)

    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下




  • GoogleAd:007



  • 関連記事

    ページの先頭に戻る