インタビュー:林真理子が描く「人生最大で最後の格差」!『我らがパラダイス』は泣いて笑える介護小説

2017年04月21日
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日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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介護離職や老々介護、介護難民、制度利用の難しさ、低賃金・重労働による介護職員の人材不足など、介護を取り巻く深刻な状況は枚挙にいとまがありません。介護は、誰にでも、しかも突然に降りかかる大問題です。

林真理子さんの『我らがパラダイス』は、そんな介護にまつわる騒動を、高級老人介護施設を舞台に、リアルに、かつユーモラスに描いた小説です。

2010年に出版されたベストセラー『下流の宴』では、「若者の格差」を描いた林さん。『我らがパラダイス』は、介護という「人生最大で最後の格差」に切り込む作品でもあります。

自身の「介護する側」としての経験や実感、何より小説ならではのハラハラドキドキが込められた本作について、林さんにお話をうかがいました。

我らがパラダイス
著者:林真理子
発売日:2017年03月
発行所:毎日新聞出版
価格:1,944円(税込)
ISBNコード:9784620108261

東京・広尾の高級介護付きマンション「セブンスター・タウン」の受付係・細川邦子(48歳)、看護師の田代朝子(54歳)、ダイニングで働く丹羽さつき(52歳)、それぞれの家庭内で深刻な介護問題を抱える3人は、困窮していく我が身と、裕福な施設の入居者たちとの想像を絶する〈格差〉を前に、一世一代の勝負に出る!「貧者の逆転劇」の結末は?

毎日新聞出版公式サイト『我らがパラダイス』より)

 

「介護」は現代の家族の大問題

――『我らがパラダイス』は、毎日新聞で約1年にわたって連載された小説ですね。

新聞連載はこれまでも書いてきましたが、毎日新聞さんとは相性がいいのか、2009年に連載した『下流の宴』がこれまでで一番反響がよかったんです。

今回も、現代の家族における一番大きな問題を描きたいと思ったときに、「やはりテーマは介護だろう」と話が進みまして。つらい、悲しい介護小説やドキュメンタリーはたくさん見聞きしているのですが、「最後はハラハラドキドキ、笑えるような介護小説を書きたい」と、かねてから思っていました。

――介護は今後、高齢化が進むにつれてますます深刻になっていくであろう社会問題です。まさに新聞小説にぴったりのテーマだと思いました。

そうですね。社会問題として提起することももちろん大切ですが、これまでにも介護小説はたくさん書かれているし、読者のみなさんもいろいろな知識をお持ちでしょう。ただ(「セブンスター・タウン」のような)豪華な介護施設が小説に描かれたのは、初めてではないかと思います。

――「セブンスター・タウン」は都内の一等地にあり、入居しているのは昭和の大スターや元医師、外交官夫人など錚々たる顔ぶれです。一流の食事にホテルのスイートルームのような居室、プールや温泉、月1回のコンサートなどアクティビティも充実の、まさに「パラダイス」ですね。実際に、こういった施設は取材されたのですか?

取材として見せていただいたり、それが難しい場合は、知り合いのところに遊びに行くという形で見に行ったりもしました。私の母が施設に入っていますので、介護に携わる人たちの現状など、なんとなくわかる部分はありました。母がいるのは地方の普通の施設ですけれども。

――一方、「セブンスター・タウン」で働く細川邦子、田代朝子、丹羽さつきの3人は、いわば世間並みの人生を送ってきました。しかし40代、50代の彼女たちそれぞれに、親の介護問題が降りかかります。自分たちの困窮ぶりと、「セブンスター・タウン」に暮らす裕福な入居者たちとの〈格差〉に愕然とする姿は、とても現実味がありました。

介護の問題は、まさに「人生最大で最後の格差」ですよね。高級老人ホームで快適に暮らす元気なお年寄りもいれば、「下流老人」といわれるように、寝たきりで生活に困っていても特養に入れない、一人暮らしのお年寄りもいます。若いときはみんながファストファッションを着てコンビニ食を食べていたりするし、これからチャンスもある。でも年を取ってからの格差は、本当につらいだろうなと思います。

――格差が自分の力では跳ね返せないものになってしまうんですね。それが、邦子たち3人の生活をも狂わせていきます。

だからといって、親が侮辱されるのは耐えられないですよね。施設のマネジャーの「努力して頑張って、一生懸命働いてきた人たちが、快適な老後を送るのは当たり前」「格差、当然」という言い方に、邦子たちは反応してカーッとなるわけですけれど、そう考えている人たちがいるのもまた事実ではないでしょうか。

保険制度にも問題はありますし、お金持ちは保険が効かないところで医療を受けている。それでも「格差が一番すごいのは介護」だと感じています。

 

目指したのは「泣いて笑える」介護小説

――自宅で母を介護していた田代朝子は、職を失った弟が転がり込んで厳しくなった家計を支えるため、看護師として復職します。一方の邦子は、父がぼけ始め、父と同居する兄嫁が家出。頼りにならない兄に業を煮やした彼女は父を引き取りますが、家族の理解を得られず、次第に自分も追い詰められていきます。「セブンスター・タウン」の一番の古株である独身のさつきは、両親との暮らしに満足していましたが、父の死により生活環境が大きく変わってしまいます。

(彼女たちのキャラクターは)三人三様にしようと思いました。邦子はわりと常識的で、兄弟に介護を押し付けられるありがちなタイプだし、しっかり者の朝子はダメな身内に苦しめられている。それだけだと悲しい話になってしまうけれど、(大胆不敵でコミカルな)さつきのおかげで、おかしみが出ました。

そういった3人の女性が、「セブンスター・タウン」という高級施設でたまたま出会う。そこに3つの人生が集約されています。

――家族の協力はなかなか得られませんが、3人の娘たちは本当に献身的です。

優しい娘たちですよね。特にさつきみたいな人は、今後増えていくと思います。田舎にいるとよくわかるんです。親は途中までは嫁に行ってほしいと思っていても、自分たちが老いていくと、子どもが家にいる喜びにふと気づく。病院に行くときにも、娘が車を出してくれて、車いすを押してくれる喜びは大きいと思います。

さつきもある時まではすごく幸せに暮らしていますが、すべてを手放さなくてはならなくなったときに、ようやく自分が切羽詰まった状態にいることがわかったのではないでしょうか。

――読み進めていくと、介護される人たちの幸せと、介護する人たちの幸せ、その両方を叶えることは本当に大変なことだなと感じます。

「介護は優しい人が負けるのだ」という邦子のセリフがありますが、我ながら名言だなと思っています。

毎月の介護にかかる費用や、「長男が看るべき」「私は嫁に行ったから関係ない」と揉めるケースは多々あると思うのですが、そうして家庭が壊れてしまったり、悲惨な状況になった人を何人も知っていますので。


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