• 武田砂鉄さんとあゆみBOOKSは○○の関係。「朝6時半から早稲田で」

    2017年03月03日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    著書に『紋切型社会』『芸能人寛容論』『せいのめざめ』、雑誌・Web・新聞等多数の媒体で活躍中の人気ライター、武田砂鉄さんから、本屋さんにまつわるエッセイをお寄せいただきました。

    武田さんは元編集者。出版社の新入社員時代に、「あゆみBOOKS早稲田店」で書店研修をしたそうです。武田砂鉄
    たけだ・さてつ。ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリー。2015年、初の著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞受賞。その他著書に『芸能人寛容論 テレビの中のわだかまり』『せいのめざめ』(益田ミリ共著)。

     

    朝6時半から早稲田で  文・武田砂鉄

    新卒で出版社に入り10年ほど勤めたが、「初めて見たものを親だと思う」という例の習性に準じるならば、この業界の「親」は、入社してすぐの書店研修で2週間ほどお世話になった「あゆみBOOKS早稲田店」ということになる。開店時間は朝8時。集合は6時半すぎ。早すぎる。

    始発で早稲田に向かうと、お店のシャッターが半分開いており、雑誌の束がいくつも積み上がっている。談笑している暇などなく、雑誌の荷ほどきに取りかかり、「また付録かよ」と静かに舌打ちしながら輪ゴムをかける。突出した人気を誇るコミックの発売日ならば、レジのそばに積んでおく。隣接する学校に通っている中学生が、開店すぐにコミックを買いに来るのだ。これから続く気だるい授業の合間に、先生の目から隠れながら読みふけるのだろうか。若造の悪行を推奨しているかのようで何だか嬉しい。

    開店準備が整うと、会社から毎日送るように言われている前日分の研修報告を、これ見よがしに朝早い時間帯にFAXで送りつける。他の新入社員が研修に出向いた書店の開店は10時、なおかつ「開店直前に来てください」という朗らかな姿勢の書店だったようなのだが、あゆみの場合はとにかく即戦力。コミックの袋がけから欠品チェック、レジのサポートまで、めまぐるしく動き回る。

    早稲田店ではスリップによる在庫管理・売上調査が徹底されていた。平積みした本の一番下のスリップに「入荷日」「初回入荷数」「累計入荷数」「売上数」を印し、再入荷するたびに数値を書き加えていく。画面上のデータではなく現場の数値を読み解くことで、この店・この場所に置かれる意味がそれぞれの本に与えられていた。

    本には一律の賞味期限があるわけではない。書店員が作り上げる陳列によって、賞味される期限が決まる。いかにも著者名だけで売れそうな本であっても、それが明らかに自著の二番煎じであったり、流行りのアレとコレをくっつけて5で割ったような薄味の本であれば、少しも売れやしない残酷を目の当たりする。平台に置いてもらうハードル、平台で売れるハードル、平台に置き続けてもらうハードル……平台に置かれている本が、いくつものハードルを越えながら、そして毎日のように”リストラ”の恐怖に怯えながら置かれている事実をまじまじと知る。

    当時、指導してくださったのが、後に小石川店の店長を務め、現在はフリー書店員として活躍されている久禮亮太さん。スリップによる管理でお店の新陳代謝をはかる方法については、明日香出版社が創業46周年記念出版として無料配布している久禮さんの書籍『普通の本屋を続けるために』に詳しい。「棚と仲直りする手続きが大切」と説く筆致に、あの2週間で教わったあれこれを思い起こす。

    当時の店長は鈴木孝信さん。やがてあゆみBOOKSの社長となり、西荻窪の颯爽堂の経営者になった人物だ。初日から、各社の営業マンがやってきては緊張した面持ちで話しているのを何度も見かける。気安く声をかけにくいオーラを放っていたが、毎日のように、自分たちのために、その日に入荷した新刊の「意味」を教える時間を設けてくれた。この新刊をここに並べる狙い、並べない理由、時には「おい、君のところから出た新刊のコレ、こんな本はこの店は売れない。即返品するから」と忠言されたのだった。

    店舗の2階にある喫茶店に連れ出すこともあった。その日に売れたスリップを胸ポケットから取り出し、なぜこの本が売れたのか、その理由を説明してくれる。個々人の購買が積もることで、お店の特性が形作られていく。編集者になっても物書きになっても、「あゆみ早稲田のあそこら辺に置かれて欲しい」との頭がずっと居残っている。

    初めて出した本が、ありがたいことに早稲田店のランキングに入り、店外から見えるディスプレイに置かれた。偉そうにも、堂々たる里帰りだ、なんて調子づいたが、既に店舗にはいらっしゃらなかった鈴木さんの顔をすぐさま思い出し、気を引き締めた。「親」から「こんな本」と言われないように、即返品されないように、精進していきたい。

     

    【著者の新刊】

    せいのめざめ
    著者:益田ミリ 武田砂鉄
    発売日:2017年01月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,404円(税込)
    ISBNコード:9784309025421

    修学旅行の夜、プールの授業…。「あの頃、女子は何を考えていたのだろう」「教室の男子と性は、うまく結びつかなかった」。10代の性の知識は自由、かつ大胆不敵。妄想と憧れが暴走した日々を鮮やかに描く。

    (日販MARCより)


    (「日販通信」2017年3月号「書店との出合い」より転載)

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