神永学さんの仕事場訪問【後編】:小説で「空想する楽しさ」を味わってほしい

2017年03月09日
楽しむ
日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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「心霊探偵八雲」や「怪盗探偵山猫」「浮雲心霊奇譚」など数々のシリーズで高い人気を誇る神永学さん。お仕事場にお邪魔してのインタビュー【前編】では、作品の充実ぶりと、2か月で3冊刊行という驚くべき執筆ペースを支える体制づくりについてお話を伺いました。

前編はこちら
売れっ子作家は、デキるビジネスマンでもある!?

後編ではいよいよ、相次いで刊行される新刊についてのお話を伺っていきますが、まずは神永さんの仕事場の様子から。

すっきりと片付いた仕事部屋の右手には、広々としたルーフバルコニーが広がっています。快適な環境にもかかわらず、「最近喫茶店が仕事場になりつつあります(笑)」。

「本当に切羽詰まったときは、ホテルにこもって書くこともあります。欲しいものがすぐ手に入らない、喫茶店やホテルの“適度に不便”な感じが執筆に集中できるんです」

執筆中は音楽が欠かせないという神永さん。「基本的には洋楽をよく聴いてますね。まずは万年筆でノートにアイデアをまとめていきます。これに、ノートパソコン、ピンクのクッションが入ったトートバッグをぶら下げて、喫茶店を渡り歩いているので、“ずいぶん準備のいいやつが来たな、長居する気満々だな”と思われているかもしれませんね(笑)」

机の左に立てかけてあるトートバッグが、その外出セット。

 

『浮雲』は「この時代にしかできないことを書いた」幕末ミステリー

――2か月で3冊の新刊が発売されるとのことですが、まずは2月24日に発売された『浮雲心霊奇譚 菩薩の理』からお話を伺いたいと思います。

このシリーズは神永さんの代表作『心霊探偵八雲』と同じ、「死者の魂が見える、赤い瞳を持つ」憑きもの落としの”浮雲”が主人公の物語です。「死人の理」「地蔵の理」「菩薩の理」の3編が収められたシリーズ第3弾ですが、近藤勇や少年剣士・宗次郎(沖田総司)が新たに登場したり、浮雲の出自が匂わされたりと、物語が大きく動いていきますね。

浮雲心霊奇譚 菩薩の理
著者:神永学
発売日:2017年02月
発行所:集英社
価格:1,296円(税込)
ISBNコード:9784087710557

赤い瞳で死者の魂を見据える“憑きもの落とし”浮雲が、相棒の八十八と供に怪異事件を追う。『心霊探偵八雲』のルーツを描く幕末ミステリー、シリーズ第3弾!!
とある呉服問屋に死んだ娘の幽霊が出没。棺桶に入れたはずの櫛が見つかり、墓を掘り返したところ、亡骸が消えており!?(「死人の理」)
首なし地蔵が仇を討つ。そんな伝承がある村で、八王子千人同心の男が幽霊に憑依された。近藤勇からの依頼で現地へ向かう浮雲と八十八だったが……!?(「地蔵の理」)
夜毎、無数に現われる赤子の霊におびえる男。憑きもの落としに関わった浮雲は、その背後に妖しげな人物の邪気を察知し……!?(「菩薩の理」)
無敵の少年剣士、宗次郎登場! 謎の呪術師、暗躍! 新たな魅力に溢れる充実の3編収録!!

集英社BOOK NAVI『浮雲心霊奇譚 菩薩の理』より〉

この作品は小説すばるで連載しているのですが、その担当さんとも「この時代にしかできないことをやろう」と話しています。今回の3つの事件も、この時代だからこそ起こり得るもの。担当さんは自分の感じたことを率直に伝えてくれる人なのですが、特に「菩薩の理」は、「恐ろしい。ただただ恐ろしい」と電話がかかってきました(笑)。

――「菩薩の理」では、「夜毎、ある男のところに無数の赤子が現れる」という心霊現象が起きるわけですが、読んでいると絶妙なビジュアルが目に浮かびます。確かに恐ろしいのですが、ちょっと見てみたくもあり(笑)。何度も読み返して想像する楽しみがありました。

「浮雲」も「八雲」も、ホラーやミステリー、人情ものといろいろなエンターテインメントの要素をミックスしていますが、「浮雲」は、歌舞伎や落語の世界観に近いものだと思っています。型がありながらも、その中で時に変化球を投げてみたり。僕自身、書いていて非常に楽しい作品ですね。

――確かに登場人物たちのセリフが生き生きしていて、すっと江戸の世に入っていける読み心地です。語り口はシンプルながら、情景がありありと目に浮かびますね。

作品が映像的だとよく言われますが、いつも思っているのは、「すごいのは読んでくださっている方」だということ。僕は読んでいる人がイメージしやすい文章を意識してはいますが、その物語を頭の中で構築しているのは読者です。

読者の想像力がたくましいからこそ、必要以上に書かない。人物の風貌しかり、風景しかり、できるだけそぎ落としながらキーになる言葉を選ぶことで、みなさんが頭の中で想像してくれる。読者それぞれがイメージや作品の空気感みたいなものを抱けることが、小説のおもしろさだと思うんです。

実はこの話、時代物でありながら、具体的な年代は一言も言っていないんです。ただ、土方歳三などの登場人物がヒントになっているのではないかと。落語とか怪談も、映像を見せられるより話だけ聞いているからこそ想像する余地があって、より怖かったりしますよね。おもしろさの違いもあると思うんですけれど、読者の方々にも、その「空想する楽しさ」を味わってほしいですね。

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