• 恩田陸さんインタビュー:多彩な”芸風”で、本を読む楽しさを伝えたい

    2017年03月02日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    ピアノコンクールを舞台にした青春群像劇『蜜蜂と遠雷』で、第156回直木賞を受賞した恩田陸さん。

    構想から12年、取材11年、執筆7年とまさに渾身の力を込めて生み出された本作は、音の世界を文章で描く並々ならぬ表現力でも絶賛されました。

    そして受賞作が今なお話題となっている中、早くも受賞第一作『失われた地図』が発売。

    受賞会見での「いろんな種類のおもしろさを体感できる小説を書いていきたい」という言葉通り、今後も人気作のスピンオフやお笑いSFなど、バラエティに富んだ新刊が続々と発売される予定です。

    今回は恩田さんに、受賞第一作『失われた地図』と、これから発売される新刊についてお話を伺いました。

     

    「土地の持っている記憶」から物語が生まれる

    ――この度は、直木賞受賞おめでとうございます。もう落ち着かれましたか?

    聞きしに勝る大騒ぎで、怒濤のようでした。周りに喜んでいただけたのはうれしかったのですが、担当編集者は受賞後の1週間で1000件くらい電話を受けたようです。大変だったと思います。

    ――その盛り上がりも冷めやらぬうちに、2月、3月は新刊ラッシュですね。まずは受賞第一作として発売された、『失われた地図』についてお伺いしたいと思います。

    失われた地図
    著者:恩田 陸
    発売日:2017年02月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784041053669

    ――とても凝った装丁が目を引きますね。直木賞受賞作の『蜜蜂と遠雷』も、カバーを外すとピアノをイメージさせる質感が印象的でした。今作は地図が印刷された透明なカバーから表紙の写真が透けて見えて、カバーを付けたりはずしたり、造本を味わう楽しみもありました。

    ▲カバーを下にずらすとこんな感じです。

    素敵ですよね、このデザイン。私自身、装丁に興味があって、デザイナーさんとの打ち合わせに参加することもあります。今回はお任せだったのですが、ハードスケジュールにもかかわらず(笑)、とても格好よくしていただきました。

    ――物語の語り手となるのは、遼平と鮎観という元夫婦の男女です。彼ら一族には特別な力があり、甥の浩平と3人で旧軍都に発生する「裂け目」を見つけ、修復する仕事を担っています。その裂け目から際限なく這い出してくるのが“グンカ”と呼ばれる、戦いの記憶の化身たちです。茶色がかった軍服、赤い星のついた帽子、編み上げ靴を身に着け、銃を手に襲いかかってくるグンカと彼らは命がけの戦いを繰り広げます。この設定はどのようなことから生まれたのですか?

    もともと街歩きがとても好きで、東京に関する本もずっと集めているんです。以前も『エピタフ東京』という作品を書いていますが、今回は「軍都」としての東京の記憶を小説の中で書いておきたいなという思いがありました。

    東京は武士が作った町ですから、防衛上のことを考えて作られています。ですからいまも、実は「軍の記憶」があちこちに残っています。それも「いま書いておかないとなくなってしまうだろうな」と思い、書き始めたんです。

    そもそも東京は、いろいろな時代や地方の記憶があちこちに残っていて、すごくおもしろいところですよね。第二次大戦が終わって70年が経ったし、そのあたりを重点的に書いてみようと思いました。

    ――恩田さんはこれまでも、「土地の記憶」といったものをテーマに作品を書かれていますね。

    私は子どものころから、父の転勤で何度も引っ越しをしていて。その土地土地で雰囲気が違ったり、明らかに「特別な場所だな」と感じることが多かったので、「土地の持っている記憶」は絶対にあると思っています。いろんな町に行ってインスピレーションを受けることもよくありますし、たくさんの人たちの人生や、降り積もった時間を感じる土地もある。昔から興味があって、いまも書くときにはテーマにすることが多いです。

     

    作品には、取材時の“ぼやき”も再現!?

    ――今回の『失われた地図』には錦糸町、川崎、上野、大阪、呉、六本木を舞台にした6編が収められています。それぞれ町の雰囲気が鮮明に描かれていて、各地に裂け目が現れる理由をたどるうちに、その土地の、現在とはまた違った顔が垣間見えてくるおもしろさがありますね。舞台はどのように選ばれたのですか?

    古い町で、私が興味のあったところをランダムに選んでいます。取材に行って、その土地に到着したときの第一印象などを忠実に再現するようにしています。

    ――遼平や鮎観は持って生まれた特別な力ゆえに、グンカをはじめとする普通の人には見えない“バケモノ”と人知れず戦っています。髪を結って仕事道具である簪(かんざし)を挿した遼平や、クールな印象ながらも内に熱いものを秘めた鮎観、そんな彼らが離れざるを得なかった理由など、彼らのキャラクターと背負わされたものが話を追うごとに明らかになっていきます。彼らの人物像についてはどのように設定されたのですか?

    なんとなーく、浮かんで(笑)。小説を書くときには舞台となる場所に行って、ここでどういうことが起きたらおもしろいかなと考えることが多いんです。例えば第1話で錦糸堀公園が出てきますが、そこに実際に行ってみたら(彼らの人物像も)なんとなく出てきました。グンカも、「ここでこんなのが出てきたら嫌だな」とか、そういう単純な発想がきっかけです。

    ――グンカが湧き出てくるシーンもそうですが、町の様子や遼平たちにしか見えない異形のもの、異界の風景もとても視覚的に迫ってきました。

    それこそ呉では両城の二百階段に行って、「これ、ハシゴみたいだな。ここからグンカが出てきたら嫌だな」と思いながら登っていました。場所に力があるので、その場所に行くと出来事が浮かぶことは多いです。現地に行って、「なるほど」と。わりと行き当たりばったりですね(笑)。

    ――本作では特に、「こうなったら嫌だな」という出来事が多発している気がしますが……。

    だいたいそのパターンですね。炎天下の猛烈に暑い大阪に行って、「なんでこんなに暑いんだ。こんな中でこんなことが起こったら……」と。

    ――恩田さんの実感も反映されているわけですね。

    かなりリアルなぼやきが入っていますね(笑)。

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