大崎梢さんが書店時代に教えられたこと―特集:本と、ともに②

2016年12月28日
楽しむ
Pocket

果てしなく、豊かに広がる本の世界。せっかくなら、自由に、心のままに味わいたい。特集「本と、ともに」では、そんな「本を読むこと」の楽しみを作品にもたっぷり詰め込んだ著者たちにご登場いただき、本と読書の魅力についてインタビューとエッセイでお届けします。

第2弾にご登場いただくのは、最新刊『本バスめぐりん。』が発売されたばかりの大崎梢さん。書店で働いていた頃の思い出とともに、本への愛情あふれるエッセイです。

本バスめぐりん。
著者:大崎梢
発売日:2016年11月
発行所:東京創元社
価格:1,404円(税込)
ISBNコード:9784488027674

特集「本と、ともに」
第1弾:住野よるさんインタビュー「文字だからこそ寄り添える」

 

あれから十数年

十年一昔という言葉がある。それで言うと私が書店で働いていたのは、一昔以上も前になる。その頃は今のようにSNSが盛んではなかったので、チェーン店を持たない1店舗限りの店で働いていた私にとって、他店の書店員は未知なる存在だった。

出かけたついでによその店に立ち寄ると、制服姿、あるいはエプロン姿でせっせと品出ししている店員さんに、「この本をどういう気持ちで置いているのですか」と、声をかけたくてうずうずした。「この本」とは人気のベストセラーだったり、まったく聞いたこともない本だったり、発売して数年も経っている本だったり。

気持ちについてもさまざまだろう。自分で選びやっと入荷した本を並べているのか、指示を受けての陳列なのか、仕事に追われ、スペース作りさえままならない忙しさなのか。ひとりひとり、状況は異なる。買っていくお客さんを見たときも、嬉しくて小躍りしたくなる人もいれば、関心のない人もいるだろう。

気になるけれど、いきなり尋ねるわけにもいかず、乱れている本を直すのがせいぜいだった。取次から送られてくる冊子には、ときおり書店員のインタビュー記事が載り、貴重な情報源だった。見ず知らずの書店員の語る、コーナー作りの工夫。あるいはフェア台の反響。興味津々に熟読した。掲載されている写真に目をこらした。

やがて自分の店の平台で、「本屋大賞受賞」と印刷された帯に遭遇する。小川洋子さんの『博士の愛した数式』に巻かれていた。その手の帯は販売促進を狙ったものとしてよくあるので、たいていは「ふーん」と流してしまう。お客さんからの問い合わせがあるかもしれないので、記憶の片隅にとどめておこうとするも、数日で忘れてしまうのが常だった。

けれどさすがに、その名前ばかりは素通りできない。私はコミック担当だったので文芸担当者を呼び止め、これは何かと尋ねた。「新しく始まったみたいですよ」と消極的な答えが返ってくる。「本屋さんが選んだ、と謳われているから、私たちが選んだみたいね」「そうですね」と、のんきに笑ったことはよく覚えている。

売上が年々落ち、先行きへの不安が膨らむ時期だった。売上回復のためにも、業界活性化のためにも、ベストセラーの登場を切に望むのだけれども、好調になったとたん入荷が滞るのはいつものパターンだ。待って待って待って、入ってくるのはほんの数冊。でなければブームが過ぎ去った後。そういう焦りや不満を、狭い場所でまきちらすのもお決まりの日常だった。ところがぼやきの中から1歩、踏み出すものが現れた。現状を変えたいのなら、変わるよう動かなくては、というひとつの転換点になったのでないだろうか。

あれから十数年。本屋大賞は飛躍的発展を遂げ、書店員の交流も盛んになった。その一方、書店の閉店は後を絶たない。あそこもここも、なくなってしまった。そして私は書店員から物書きの立場に移った。

あのとき教えられたことは折に触れて思い出す。待つだけでなく、自ら進んでできることをしよう。きっとあるはずだ。考えよう。変えたいのなら、変わるよう動こう。肝に銘じ、しっかり活動しなくては、と思う。だから思うだけではなくてね。以下リピート。

oosakikozue-profile

大崎 梢 Kozue Osaki
東京都生まれ。2006年『配達あかずきん』でデビュー。『サイン会はいかが?』『平台がおまちかね』など書店や出版社を舞台にしたシリーズを多数描く。他の著書に『クローバー・レイン』『プリティが多すぎる』『誰にも探せない』『ふたつめの庭』『空色の小鳥』『だいじな本のみつけ方』『スクープのたまご』などがある。

あわせて読みたい:
「週刊文春」編集長が太鼓判!週刊誌の舞台裏を描く『スクープのたまご』

だいじな本のみつけ方
著者:大崎梢
発売日:2014年10月
発行所:光文社
価格:1,080円(税込)
ISBNコード:9784334929763
クローバー・レイン
著者:大崎梢
発売日:2014年08月
発行所:ポプラ社
価格:734円(税込)
ISBNコード:9784591140987

特集 第3弾:米澤穂信さんエッセイ「誰も辿りつけない図書館で」


(「新刊展望」2017年1月号より転載)

common_banner_tenbo

Pocket

タグ
  • ほんのひきだし公式Instagram

    ほんのひきだし公式Instagram
  • 関連記事

    ページの先頭に戻る