恩田陸さん

恩田陸さんの新刊は、子どもから大人まで楽しめる、少年と少女の「夏のお城」の物語

2016年12月22日
楽しむ
日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
Pocket

あらゆるジャンルで魅力的な作品を生みだし、ノスタルジアの魔術師と称される恩田陸さん。このほど2冊同時に刊行された『七月に流れる花』『八月は冷たい城』は誰の心にもある、少年少女時代の特別な「夏」を呼び覚ます、まさに恩田さんならではのダークファンタジーです。刊行にあわせ、恩田さんにエッセイを寄せていただきました。

七月に流れる花
著者:恩田陸
発売日:2016年12月
発行所:講談社
価格:2,484円(税込)
ISBNコード:9784062203449
八月は冷たい城
著者:恩田陸
発売日:2016年12月
発行所:講談社
価格:2,484円(税込)
ISBNコード:9784062203456

 

子どもたちの城で

子どもの頃、「夏」というのは特別な季節だった。長い夏休みは1年間という時間にぽっかりと空いた穴のようで、そこだけ別の国という感じがした。そして、夏休みは旅行に行ったり、里帰りしたり、キャンプをしたりと、いつも遠いところに移動していた。夏とセットになっている、数々の場所の記憶。それが今となっては渾然一体となって、夏のあいだは「お城」にいたような気がするのだ。「夏のお城」という、遠く離れた、風が吹き抜ける素朴な「お城」に。そこに出かけていくと、ひと夏の不思議な事件があって、戻ってくると別の人間になっているような場所。

『七月に流れる花』と『八月は冷たい城』の舞台となる「夏流城(かなしろ)」はそんなイメージから生まれた。夏の異空間、特別な体験をする場所、明るくて常に風が吹きぬけているけれど、残酷な秘密が隠されているところ。

そして、子どもの頃は、女子と男子は必ず別々だった。ちょっと離れたところにいて、互いに意識しているのに意識していないふりをしていて、たまにほんの少しだけ接点があって、ぶつかったり、戸惑ったり、憧れたりする存在。だから、女の子の城と男の子の城は別々。そんな世界のお話になった。

大人たちは、いつも、子どもたちに過酷な現実を見せまいとする。何も知らない幸福な時期を、幸福に過ごさせたいと思っている。

だけど、子どもたちは、とっくに世界は見た目通りの幸せで美しい場所ではないと気付いてしまっている。自分たちが住むのはお菓子の国ではなく、土塀の向こうに恐ろしいものが潜んでいる危険でいっぱいの世界であると。同時に、こうも気付いている――その危険と恐ろしさも世界の美しさを構成するもののひとつで、それらを併せ持つからこそ、そこに人生の歓びが潜んでいるのだと。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリー」という主旨で始まった「ミステリーランド」。依頼をいただいたのはもうずいぶん前のことで、さんざんお待たせした挙句、私が最後になってしまった。夏休みには、宿題がつきもの。気にかかっていた宿題をようやく提出することができて、「肩の荷を降ろす」とはこういうことか、とひと息ついている。では、私はこれで「夏のお城」を卒業してしまったのだろうか?

いや、この2つのお話を書いたことで、むしろ私の中には、以前にも増してしっかりと「夏流城」が棲みついてしまった。そして、このお話を読んだ読者の皆さんにとっても、願わくば「夏流城」が特別な場所になりますように。


%e6%81%a9%e7%94%b0%e9%99%b8%e3%81%95%e3%82%93-%e3%82%ad%e3%83%a3%e3%83%97%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e5%85%a5%e3%82%8a%e6%a8%aa-640x479

恩田 陸 Riku Onda
1964年、宮城県生まれ。早稲田大学卒。日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』で1992年にデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、2006年『ユージニア』で日本推理作家協会賞を、2007年『中庭の出来事』で山本周五郎賞を受賞。ミステリー、ホラー、SF、ファンタジーなどあらゆるジャンルで、魅力溢れる物語を紡ぎ続けている。近著に、『蜜蜂と遠雷』『タマゴマジック』『消滅』など。

蜜蜂と遠雷
著者:恩田陸
発売日:2016年09月
発行所:幻冬舎
価格:1,944円(税込)
ISBNコード:9784344030039
雪月花黙示録
著者:恩田陸
発売日:2016年02月
発行所:KADOKAWA
価格:734円(税込)
ISBNコード:9784041031841
消滅
著者:恩田陸
発売日:2015年09月
発行所:中央公論新社
価格:1,944円(税込)
ISBNコード:9784120047640

(「新刊展望」2017年1月号より転載)

common_banner_tenbo

Pocket

タグ
  • ほんのひきだし公式Instagram

    ほんのひきだし公式Instagram
  • 関連記事

    ページの先頭に戻る