• 〈書評〉SF小説の現在  文・大倉貴之

    2015年06月29日
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    日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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    今回の原稿を書く前に読み終えた本を並べてみると、いつの間にか季節が移ろうように、輝(きらめ)くような才気を纏った新しい作家達が多く登場してきている。ケン・リュウ『紙の動物園』は、古沢嘉通編・訳による待望の日本オリジナル短篇集。作者は11歳の時に家族とともに米国に移住した中国系アメリカ人。表題作「紙の動物園」は史上初めてヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の三冠を獲得した作者の出世作。経済的な理由でアメリカ人男性の妻となった中国人の母とアメリカ人として生まれ育った息子との物語で、語り手である息子と不思議な折り紙を折ることができるが、英語をうまく話せないままの母との複雑な関係が心に染みる。またヒューゴー賞受賞の「もののあはれ」では、新しい居住可能な星をめざす宇宙船の日本人乗組員が、かつて小惑星が地球に迫り、多くの人が宇宙船に乗れないと判った緊迫した日々を回顧する姿が描かれる。他にも中国の田舎で出会った妖狐と妖怪退治師のやがて世界を股にかける闘いを描く「良い狩りを」などの傑作、佳作揃いの全15編を収録。

    紙の動物園
    著者:ケン・リュウ 古沢嘉通
    発売日:2015年04月
    発行所:早川書房
    価格:2,052円(税込)
    ISBNコード:9784153350205

    倉田タカシ『母になる、石の礫で』は第2回ハヤカワSFコンテスト最終候補作。3Dプリンターがものすごく進化して食べ物から自律性機械まで出力できるようになった今世紀末、倫理的な問題や犯罪抑止のため厳しい法律が成立したことから、3Dプリンターを使った過激な実験をするため地球を脱出した12人の科学者たちがいた。いわゆるマッドサイエンティストの彼らは太陽系内にコロニーを建設し様々な実験を始めた。ここまでが物語の背景で、長い時が過ぎ、彼ら〈始祖〉に生み出された人工生命体〈二世〉の4人が本書の主役たち。ちなみに本書での〝母〟とは進化した3Dプリンターのことで、〈二世〉は母を身体内に装備している。ある日、母星である地球から近づいてくる巨大な建造物に気がついた4人は、久しぶりに〈始祖〉とコンタクトを取るが……。ポストヒューマンSFとして近年にない傑作だ。

    母になる、石の礫で
    著者:倉田タカシ
    発売日:2015年03月
    発行所:早川書房
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784152095206

    さる5月21日に企業などが本人の同意なしで使える範囲が拡大する個人情報保護法改正法案が衆議院本会議で可決された。藤井太洋『ビッグデータ・コネクト』は、舞台を数年先という近未来にこそしているが、描かれているのは今そこにある個人情報をめぐる様々な闇である。京都府警サイバー犯罪対策課の万田はITエンジニアの誘拐事件の捜査を命じられるが……。捜査は行政サービスの民間委託に隠された不正を暴いていくことになる。かつてない警察小説の誕生である。

    ビッグデータ・コネクト
    著者:藤井太洋
    発売日:2015年04月
    発行所:文藝春秋
    価格:853円(税込)
    ISBNコード:9784167903282

    上田早夕里『薫香のカナピウム』は遠未来、赤道直下の熱帯雨林の樹上で暮らす民と軌道上に暮らす人が存在する世界を少女の視点で描いたコンパクトな作品。先行する「地球の長い午後」「風の谷のナウシカ」「イリアム」を連想させるところもありSFファン向き。

    薫香のカナピウム
    著者:上田早夕里
    発売日:2015年02月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784163942063

    森見登美彦『有頂天家族 二代目の帰朝』はアニメ化もされた前作の7年ぶりの続編。老いぼれ天狗・赤玉先生の跡継ぎである2代目が英国留学から戻ったことから様々な騒動が始まる。京都といういわば現代の異世界でしか成立しえないユーモアに溢れた作品。ファンとしては、巻末で予告されている第3部は2~3年後の刊行を望みたい。

    有頂天家族 二代目の帰朝
    著者:森見登美彦
    発売日:2015年02月
    発行所:幻冬舎
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784344027275

    筒井康隆『世界はゴ冗談』は12篇を収録した素晴らしい作品集。作家に年齢は関係ないと思うが作者は80歳である。往年の爆発力が健在なのが「ペニスに命中」と「教授の戦利品」。巻末の「附・ウクライナ幻想」は自著『イリヤ・ムウロメツ』(筒井康隆、絵=手塚治虫)の成立過程を書き記したエッセイ。これを読むと、この作者の活躍を同時代人として伴走できる幸せを感じる。

    世界はゴ冗談
    著者:筒井康隆
    発売日:2015年04月
    発行所:新潮社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784103145318

     

    (「新刊展望」2015年7月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)

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