• 「死ぬまで漫画を読み続けて、学び続けたことを別の形に転換していきたい」ドミニク・チェンさん(IT起業家・情報学研究者)―各界注目の人が選ぶ「これが俺の学習マンガだ!」第2回

    2016年12月03日
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    ほんのひきだし編集部
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    IT企業家のドミニク・チェンさんが選ぶ「これが俺の学習マンガだ!」

    これまでに読んできた漫画の中から、自分にとって学びになったと思うものを選ぶ「これが俺の学習マンガだ!」。この連載では各界注目の人に、ご自身にとっての「学習マンガ」を選んでいただき、選んだ理由とともにランキング形式でご紹介しています。

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    第2回の選者はIT起業家で、NHK深夜のニュース番組「NEWS WEB」でネットナビゲーターも務めたドミニク・チェンさん。情報学研究者としても活躍するドミニク・チェンさんにとっての「学習マンガ」は、一体どんなものなのでしょうか?

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    ドミニク・チェン (株式会社ディヴィデュアル共同創業者/NPOコモンスフィア理事)
    1981年生まれ。博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員/キュレーターを経て、NPOコモンスフィア(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事/株式会社ディヴィデュアル共同創業者。IPA未踏IT人材育成プログラム・スーパークリエイター認定。NHK NEWSWEB第四期ネットナビゲーター(2015年4月〜2016年3月)。2016年度グッドデザイン賞・審査員「技術と情報」フォーカスイシューディレクター。

    ●著書・訳書(※印が訳書)
    ・『電脳のレリギオ』(NTT出版)
    ・『インターネットを生命化するプロクロニズムの思想と実践』(青土社)
    ・『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社)
    ※『シンギュラリティ:人工知能から超知能まで』(NTT出版)
    ※『みんなのビッグデータ:リアリティマイニングから見える世界』(NTT出版)

     

    これがドミニク・チェンさんの「学習マンガ」だ!

     

    第1位『バガボンド』

    バガボンド 1
    著者:井上雄彦 吉川英治
    発売日:1999年03月
    発行所:講談社
    価格:616円(税込)
    ISBNコード:9784063286199

    「強い」とはどういうことか……。 六十余戦無敗だった男「宮本武蔵」を、井上雄彦が圧倒的画力で描く超話題作!

    講談社コミックプラス『バガボンド』より)

    「仕合う」ということの真の意味を学んだ作品です。「相手の技能を活かした上で勝つことが最上である」という活人剣の考え方においては、「殺人剣」つまり相手の技能を萎縮させて得た勝利には、価値がないとされます。

    最近の文芸でこの境地を最も見事に描いているのが、『バガボンド』における佐々木小次郎と猪谷巨雲の仕合いのシーンだと思います。仲間を斬り殺された復讐心から発奮する猪谷が、次第に小次郎との闘いに没入し、憎しみの感情が後退する中で「なぜ自分たちは戦うのだろうか」と問いつつ、一挙手一投足を重ねるごとに技が磨き上げられていく喜びに震えながら死んでいくという、あまりに壮絶な描写。

    僕たちはこんな凄絶になる必要はないですが、コミュニケーションの本質として「相手を活かす」という思想を忘れないでいたいと思います。

     

    第2位『どうらく息子』

    どうらく息子 第1集
    著者:尾瀬あきら
    発売日:2011年01月
    発行所:小学館
    価格:566円(税込)
    ISBNコード:9784091835703

    古典落語と同時に、師匠の存在の有り難みを学べる作品。日々の流れに追われて道に迷いそうな時、『どうらく息子』を読み返して、主人公の与太郎っぷりに自分を重ねながら、勇気づけられたことが幾度もあります。

    作中で演じられる人情噺の内容が、現代において時間をかけながら成長していく主人公たちの姿と交差する描写を通して、落語の登場人物たちの「了見」が現代人である我々の「心」と接続され、より一層共感できるという構造になっているので、この作品は、落語の世界を知るための最善のガイドブックとしても機能するのではないでしょうか。また、作中に登場するさまざまな段階の落語家が「守破離(=最初は形式を守って学習した後に、それを破って独自の境地へと離れていく)」を生きていく様も、学習プロセスの本質について教えてくれます。

     

    第3位『蒼天航路』

    蒼天航路 1
    著者:イハギン 王欣太
    発売日:1995年10月
    発行所:講談社
    価格:545円(税込)
    ISBNコード:9784063284348

    「人間の才能」とは何かを学べる作品。『三国志演義』などの劉備贔屓のせいで、すっかり悪人に貶められた曹操を「人間の傑作」として物語の中心に据え置き、自分自身だけではなく周りの人間の才能をも開花させていく姿は、壮観であるばかりか、人間の多様な個性や強み、そしてそれを突き動かす衝動がどのように発現するのかということを高密度に「魅せて」くれます。

    軍事、政治、経済から文学、詩歌、料理、医学まで、森羅万象に関わる「才」に興味を持ち、包摂しようとするその貪欲さからは、ある種の社会システム論者としての姿が垣間見えます。伝説の名医・華佗に、その秘術を体系的に記述せよ(オープンソース化!)と迫る徹底的な合理性と同時に、敵将である関羽の神がかった奮闘ぶりに魅了され、その銅像までも建ててしまうような非合理性を併せ持つ曹操の一見矛盾するような姿に共感します。

     

    第4位『MASTER KEATON』

    MASTER KEATON完全版 1
    著者:浦沢直樹 勝鹿北星 長崎尚志
    発売日:2011年08月
    発行所:小学館
    価格:1,337円(税込)
    ISBNコード:9784091841612

    世界の多様性と深奥さを横断する喜びを学べる作品。日英ハーフの保険調査員、その実は考古学者にして英軍特殊部隊出身者という、文武両道すぎる主人公の設定はズルいとさえ思いますが(笑)、特に冷戦後のヨーロッパ社会の闇を生きる多様な人々の姿を、ここまで克明にかつ説得力をもって描いた作品は、他のジャンルでも類を見ないといっていいのではないでしょうか。

    イギリスのアルゼンチン侵攻の記憶に苛まれる軍人たち、マフィアに苦しめられる南イタリア社会、ユダヤ人と共に虐殺されたジプシーたち、ソ連崩壊後に亡霊のように生きる元スパイたち、アパルトヘイトで分断された黒人と白人の友情……。激動する時代を揺蕩いながら、さまざまな哀しみを背負う人々を暖かく見守るその視点は、分断の傾向が続く現在の国際社会の先に包摂的な社会の構築を見据えるために、必要なものとさえ思います。

     

    第5位『虹色のトロツキー』

    虹色のトロツキー 1
    著者:安彦良和
    発売日:2010年05月
    発行所:双葉社
    価格:2,160円(税込)
    ISBNコード:9784575302165

    「人間が歴史のなかで生きている」という感覚を学べる作品。日本人の父とモンゴル人の母を持つ主人公・ウムボルトが、第二次大戦最中の満州国と日本、中国、そしてロシアの戦争に巻き込まれながら出生の秘密を知るために彷徨うというプロットは、同時代の日中混血の主人公を据えた『龍』(村上もとか/小学館)にも通じますが、後者が活劇調だとすると、こちらは劇画という形容が相応しい内容になっています。

    満州国に設立された建国大学という特殊な環境や、石原莞爾、辻政信、川島芳子といった超個性的な人物たちが、大枠の史実と細部のフィクションで練り上げられており、複数の国の思惑の中で翻弄され続ける主人公の希望と焦燥の反復は、さながらアムロ・レイの苦悩を想起させます。ウムボルトは架空の人物ですが、本作のエンディングでウムボルトの息子と作者が邂逅するシーンは、『合葬』(杉浦日向子/ちくま文庫)のパラレルワールド的なエピローグのように、「歴史が現在と接続している」ということを、フィクションしか持ち得ない説得力で示してくれます。

     

    ドミニク・チェンさん、選んでみてどうでしたか?

    ドミニク・チェンさんより:
    気がついたら人生の要所々々で読み返しているという漫画作品を思い出しながら、深く考えずに書いてみました。こういう振り返りをすることで、自分がそれぞれの作品からどういう価値を学んでいるのかに、改めて気がつくことができました。

    ここではランキングを書きましたが、自分のなかでも確固たる順位付けは存在しないと思います。音楽のように、その時々で思い出すフレーズやシーンは異なるはずです。他にも何度も読み返してきて何かを「学んだ」と思わせてくれる作品としては、『攻殻機動隊(1、1.5、2.0)』(士郎正宗/講談社)、『風の谷のナウシカ』(宮﨑駿/徳間書店)、『La Citadelle aveugle』(Mœbius/Les Humanoïdes Associés)、『棒がいっぽん』(高野文子/マガジンハウス)所収の短編「奥村さんのお茄子」と「美しき町」、『百日紅』(杉浦日向子/ちくま文庫)、『へうげもの』(山田芳裕/講談社)、『寄生獣』(岩明均/講談社)などがざっと思いつきますが、もっと深掘ればさらに多くの作品が出てきそうです。

    生態心理学者ジェームズ・ギブソンが「直接知覚論」で説いたように、個体としての学習は死ぬその時まで終わらず、さらには発達心理学者エリク・エリクソンが「継承性」と呼んだのは、学習された価値が他者に継承されれば個体の時間を越えて連鎖していくということでした。 だからこれからも死ぬまで漫画を読み続けて、学び続けたことを別の形に転換していきたいと思います。

     

    これが俺の学習マンガだ!とは?

    「これが俺の学習マンガだ!」は、日本財団が主催する「これも学習マンガだ!」 の連動企画。「これは自分にとって学びになった」「新しい世界を知った」という作品をランキングにしてWeb上に投稿し、SNSでシェアすることができます。なお投稿された作品やランキングは集計され、「総合ランキング」として2017年1月に発表される予定です。

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