吉田修一

吉田修一さんインタビュー:最新作は5つの“犯罪”を描く『犯罪小説集』

2016年10月24日
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日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当 猪越
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『悪人』『さよなら溪谷』『怒り』と、実在の事件にインスパイアされた話題作を発表してきた吉田修一さん。最新作『犯罪小説集』は犯罪を扱った5編を収めている。

▼函入り愛蔵版も同時発売です。

犯罪小説集 愛蔵版
著者:吉田修一
発売日:2016年10月
発行所:KADOKAWA
価格:2,700円(税込)
ISBNコード:9784041047347
犯罪小説集
著者:吉田修一
発売日:2016年10月
発行所:KADOKAWA
価格:1,620円(税込)
ISBNコード:9784041047385

「実際に起こった事件を長編で書いたときに生まれるものは経験としてあるけれど、関連のない話を5つ並べたときに、自分では予想できない何かが生まれるのではないか」。“小説集”という形には、そんな予感があったという。

女児が帰宅途中に行方不明となり、以来10年間、わだかまりを抱えたままの住人たち(「青田Y字路」:あおたのわいじろ)、痴情のもつれで愛人の男を殺したスナックのママ(「曼珠姫午睡」:まんじゅひめのごすい)、バカラにはまる大企業の御曹司(「百家楽餓鬼」:ばからがき)、住民との行き違いから過疎の集落で孤立していく男(「万屋善次郎」:よろずやぜんじろう)、過去の栄光から抜け出せない元プロ野球投手(「白球白蛇伝」:はっきゅうはくじゃでん)。平成に起きた5つの事件をモチーフに、人間が犯罪に向かう過程と、巻き込まれていく人々の哀しみが描かれる。

これまでも今回も、書きたかったのは「事件」そのものではない。「犯罪という言葉を行為としては受け止めていないんでしょうね、きっと」。事件を背景に浮かんできたもう一つの世界。そこにいる人々が犯罪に関わっていれば、それは犯罪小説になる。人間を描く作家にとっては「ただそれだけなんです」。

田園風景の中のY字路、真っ赤な曼珠沙華が咲く畦道、マカオにあるカジノのVIPルーム……。どの小説も読みはじめて数行で、時も場所も越えて、作品世界に立ちすくんでいる自分に気付く。「書いている本人がそうなんです。ぽつんと事件のあったところに立たされていて、そこから見えるものを書く感じ」。その手掛かりのなさ、足元の不安定さに、物語の不穏な空気はいやが上にも高まっていく。

虚構の世界に入り込むことで、より深く感じられる、怒り、焦燥、壊れていく人間たちの凄まじい孤独。本作では、それらが圧倒的な生々しさで読む者に突きつけられる。

執筆中は日常と作品世界の境目が薄れ、「実生活がなくなっていく」感覚を味わったそう。それは一作にどっぷりと入り込み、2週間ほどで一気に書き上げる短編ならではの濃密さ。だからこそ各話に宿る、一片の清らかさが光を放つ。

「犯罪を扱った小説を書くときに、裁く側には立てないし、立たないという僕自身の立場は一貫していると思っています。物語も人もいろいろな面がある。それをそのまま書きたいし、伝えたい」

吉田さんは本書の刊行に際し、「こんなにも物語をコントロールできず、〈彼ら〉の感情に呑みこまれそうになったのは、初めてでした」との言葉を寄せている。その物語の奔流に身を任せたとき、どのような思いが胸に渦巻くのか。ぜひじっくりと嚙みしめてほしい。


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吉田修一 Shuichi Yoshida
1968年長崎県生まれ。97年に『最後の息子』で第84回文學界新人賞を受賞し、デビュー。2002年には『パレード』で第15回山本周五郎賞、『パーク・ライフ』で第127回芥川賞を受賞。2007年『悪人』で第61回毎日出版文化賞と、第34回大佛次郎賞を受賞。2010年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞を受賞。著書に『女たちは二度遊ぶ』『路』『怒り』『森は知っている』『橋を渡る』など多数。


(「新刊展望」2016年12月号「著者とその本」より転載)

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