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人生は最初に引いたキャラ差を覆すことのできないクソゲーか、それとも自由度の高い神ゲーか。
このほど2巻目が刊行された屋久ユウキ『弱キャラ友崎くん』は、スクールカーストの底辺で燻っていたクソゲー派の友崎が、神ゲー派の同級生・葵の指導の元で、攻略に乗り出す自己啓発ラノベだ。友崎は、コミュ障のぼっちだが、実は対戦ゲームでゼンイチの地位を守り続けているトップランカーで、ゲームで培ったノウハウを駆使、同級生の観察・分析をもとに、型の模倣からはじめ、やがて隣の席の女子に声をかけるなど、さまざまなミッションをクリアしていく。まるで恋愛シミュレーション・ゲームのような展開だが、語り口はユーモラスでセンスもいいうえに、葵の人間関係論の説得力と、友崎くんのゲーマーならではのストイックさで、真面目な青春小説に仕上がっている。
『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』は、小学校の女子バスケ部を舞台にしたスポ根ロリコメ『ロウきゅーぶ!』で人気を博した蒼山サグの新シリーズ。今回の題材は高校野球で、さらにロリも萌もなしと、スポ根なら王道だが、ラノベとしては些か異端な作品。
小学生時代に幸斗たち仲良し4人で結成した野球チーム“常滑スライダーズ”。小さなチームだったが、強烈なスライダーを投げる剣が加わったことで、彼らの夢は膨らんだ。ところが、変化球を禁止する小学生野球のルールに阻まれて、常滑スライダーズは惨敗。さらに剣が転校していったことで、チームは自然消滅した。その苦い記憶を払拭することができないまま高校生になった幸斗は、野球に打ちこむことも、きっぱり諦めることもできず、無為な日々を送っていた。ところがそんな幸斗の前に突然、幻のエースが帰ってきた。幸斗とバッテリーを組む、ただそのためだけに……。まだ人物紹介編で投球数も少ないが、今後、頭脳派捕手の幸斗が、スライダーしか投げられない剣をどうリードするのか愉しみだ。
犬村小六『やがて恋するヴィヴィ・レイン(1)』は、ナポレオン戦争にロボットがあったらという着想で描かれたファンタジー戦記。《飛空士シリーズ》でもだったが、懐かしさを伴う既視感のあるシーンを重ねながら、大きな物語の中に読者を誘導する手腕が見事だ。
12歳のルカはある日、空から降ってきた幼い少女を助け、スラム街の片隅でいっしょに暮らし始める。しかし彼女は、飢えと寒さの中、病で息をひきとった。「ヴィヴィ・レインを見つけて」という謎の言葉を残して。世界を変える力を持つヴィヴィ・レイン。ルカはその願いを叶えるべく旅にでる決意を固める。それから数年後、旅の資金を得るために王国軍に入隊し、敵の機械兵を奪い取ったルカは、王女専用機械兵の操縦者に抜擢されるのだが……。女であることを隠して従軍する天才操縦士、王族である責務を一身に背負う王女、1分間だけ超絶的な身体能力を発揮できる人造人間の少女。戦乱と革命に翻弄されながら懸命に生きる4人の友情と恋を描いた劇的なボーイミーツガール小説でもある。
昼熊『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』は「なろう系」異世界転生小説の極北。自販機マニアが事故にあい、目覚めたらそこは中世ヨーロッパ風の異世界で、あろうことか彼は自販機に転生していたというタイトルそのままの物語だ。もちろん異世界なので、電源も流通ルートも存在しないが、意思の力とポイント制度で中身の入れ替えから機能の交換も可能。自販機のスペックは現実世界に則しているようで、驚きの機能や商品も登場する。しかし自販機なので自走もできないし、使える言葉は「いらっしゃいませ」「当たりが出たらもう一本」と言った定形フレーズのみ。この不自由極まりない主人公が、自販機を背負って歩く怪力少女ラッミスと出会い、魔法具の専門家を求めて旅に出る。2人の旅に自販機の前で繰り広げられる人間模様のスケッチを挟んだ自販機ロードノベル。薀蓄の面白さとほんわかした雰囲気で読ませるが、それでもこれはさすがに一発ネタだろうと思っていたのだが、なんと2巻目がはやくも今月の新刊ラインナップに! いやはや……。
(「新刊展望」2016年11月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)