• 『一瞬の風になれ』の佐藤多佳子さん最新作!深夜ラジオが舞台の青春小説『明るい夜に出かけて』

    2016年10月15日
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    日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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    青春小説の名作『一瞬の風になれ』の佐藤多佳子さんによる最新作『明るい夜に出かけて』は、佐藤さんがデビュー前から温めていたイメージを元に、実在の深夜ラジオを舞台に描く長編小説です。刊行にあわせ、佐藤さんにエッセイを寄せていただきました。

     

    夜の中を探し続けて

    明るい夜に出かけて
    著者:佐藤多佳子
    発売日:2016年09月
    発行所:新潮社
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784104190041

    私は、よほど気が長いのか、しつこいのか、作品の構想を10年以上、持ち続けることがある。これまで新潮社から刊行した3作の小説は、どれも大学時代に何某かの出発点があり、4作目となる本作も、デビュー前の20代の頃のイメージとタイトルを元としている。

    まだ、ワープロ専用機でフロッピーディスクを使っていた頃だ。この『明るい夜に出かけて』というタイトルと登場人物のリスト、そして書き出しの10ページほどが、ディスクに残されている。

    あれこれままならない思いを抱えた10代の少年少女が、本来いるべきでない深夜の時間に街をふらふらして交流して、そこから何かを見出していく、そんな青春小説のイメージだった。イメージだけは強くあるものの、まったくストーリーが作れず挫折した。それでも、忘れられず、心の奥に埋もれていたものを何とか形にしようと思い始めたのは、4、5年前だっただろうか。

    その時は、メイン・モチーフは、他のものを考えていた。10代後半の2人の少年と1人の少女、微妙な三角関係、最初のイメージに近い構想だった。この3人が出会うきっかけを、ラジオ番組にしようと思った。夜とラジオというのは、いい取り合わせだし、必然でも偶然でもない感じが気に入った。自分が元々、深夜ラジオを聴くのが好きだということもあった。

    メジャーな番組より、若いリスナーが多いマニアックなものがいいかなと思い、深夜3時スタートのオールナイトニッポン2部をランダムに聴くうちに、アルコ&ピースというインパクトのあるパーソナリティに出会った。

    シュールなお笑いコンビと、奇抜で強烈な世界観を構築するスタッフと、遊び心満載の若いリスナーが作りだす、かつてない斬新でポップな番組に、私は心酔した。仕事を忘れて、一リスナーとなって夢中で楽しむうちに、深夜ラジオを登場人物の出会いのきっかけだけではなく、メイン・モチーフとして据えたくなってきた。

    それでも、初めは、現実の放送をそのまま使うつもりはなく、架空の番組や設定を考えていったが、結局、アルコ&ピースのオールナイトニッポンより存在感のあるものを考えつくわけがないと思うようになった。この独特でパワフルな番組に負けないフィクションを創造して融合させてみたい。作品として成立するかどうかわからない賭けのような挑戦に踏み切った。

    主人公が、そこそこキャリアのあるラジオリスナーで、ネタを投稿するハガキ職人ということで、大学生(休学中だが)にしたが、20歳という年齢を書くのは初めてだった。

    同じ番組の職人同士、バイト先の先輩後輩、高校の同級生、3通りの知り合い方、関わり方のコミュニケーションを設定し、人間関係にネガティブな主人公がそれぞれの関わりを少しずつ肯定していく変化を、実在のラジオ番組を織り込みながら、作っていった。

    ある種の実験作とも言えるが、それより、何より、30年来の思いを託した大切な作品となった。


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    佐藤多佳子 Takako Sato
    東京生まれ。1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で産経児童出版文化賞と日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を、『一瞬の風になれ』で本屋大賞と吉川英治文学新人賞を、『聖夜』で小学館児童出版文化賞を受賞。他の著書に『しゃべれども しゃべれども』『シロガラス』など。


    (「新刊展望」2016年11月号より転載)

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