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深緑野分さんの読書日記:9月の主な読書

2016年10月13日
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日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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初めての長編『戦場のコックたち』が各賞にノミネートされ、話題を呼んだ深緑野分さん。発売されたばかりの青春ミステリ『分かれ道ノストラダムス』も注目を集めています。そのミステリ界の新鋭が「読書の秋」に読んだのは……?

 

9月の主な読書

9月、ハーラン・エリスン『死の鳥』(ハヤカワSF文庫)を読む。実はエリスン作品を読むのははじめてで、著名な『世界の中心で愛を叫んだけもの』もタイトルしか知らなかった。

死の鳥
著者:ハーラン・エリスン 伊藤典夫
発売日:2016年08月
発行所:早川書房
価格:1,296円(税込)
ISBNコード:9784150120856

読みはじめて驚く。文体と物語が尖っていてかっこいい。「『悔い改めよ、ハーレクィン!』とチクタクマンはいった」、「プリティ・マギー・マネーアイズ」他、タイトルも最高である。ものすごく好きだ。

特に「ジェフティは五つ」と「ソフト・モンキー」がたまらない。

「ジェフティは五つ」は、とある場所で子供が「ジェフティは元気(fine)、いつだって元気(fine)」と言うのを、エリスンが「ジェフティは五つ(five)、いつだって五つ(five)」と空耳し、思いついた話だという。幼なじみのジェフティはいつも5歳。子供のままのジェフティは両親にも疎まれるが、主人公だけは一緒に遊んでやっていた。しかしある時主人公は、年を取らないジェフティがどんな世界に住んでいるのかを知る。過ぎ去りし日々への渇望が、まさかこんな展開を迎えるとは。

「ソフト・モンキー」も傑作だ。NYの路上に暮らすアフリカ系アメリカ人の女は、毎日毎日、腕の中の人形に話しかけている。どうやら、生き別れた実の息子だと思い込んでいるようだ。そんな時、ギャングが人を殺すのを目撃してしまい、彼女も命を狙われるようになるが。

時々、ぶん殴られつつも、うっとりした心地で奈落に落ちていきたいような小説に出会うことがある。エリスンの作品はまさにそれだ。高慢にさえ感じる洒落た文章の下に、温かい血が流れている。ただしその色は赤ではない。緑や青、得体の知れない色も混じっているだろう。物語の魂は今にも崩れてしまいそうに繊細だが、捕まえようと手を伸ばせば逃げ、触れたらナイフの鋭さがある。残酷で、美しくて、汚い。

私の大好きなタイプの物語じゃないか! 何で今まで読んでなかったんだ。土下座をする。

東京創元社の担当編集者さんにそのことを伝えたところ、ひとしきり盛り上がり、彼女はエリスン関連のコレクションを所持している追っかけだという事実を知った。エリスンは非常に厄介な性格の持ち主だそうだが、根っこが善人で、悪ぶっていても悪になれない人だと思う―もし本人の耳に入れたら怒られるだろうけれど。

読了してすぐ『世界の中心で愛を叫んだけもの』(ハヤカワSF文庫)に取りかかった。誰かが編んだ短篇集が好きなので、エリスン編のアンソロジー『危険なヴィジョン』(ハヤカワSF文庫/絶版)も読もうと思う。

世界の中心で愛を叫んだけもの
著者:ハーラン・エリスン 浅倉久志 伊藤典夫
発売日:1979年01月
発行所:早川書房
価格:1,015円(税込)
ISBNコード:9784150103309

平行してスティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』(河出文庫)を読む。こちらは頭が良すぎてしまった子供の悲劇の話である。夭折したエドウィン・マルハウスという「天才少年」の話かと思いきや、一筋縄ではいかない。実はエドウィンを観察している少年の方が天才で、文字という文字からすさまじい量の屈託と郷愁が溢れている。圧倒的で偉大な小説だった。

エドウィン・マルハウス
著者:スティーヴン・ミルハウザー 岸本佐知子
発売日:2016年06月
発行所:河出書房新社
価格:1,620円(税込)
ISBNコード:9784309464305

宮内悠介『スペース金融道』(河出書房新社)も読む。金融工学はちんぷんかんぷんだが、悪人か、逆に人間くさいのかわからない男、ユーセフに心惹かれ、ほくそ笑みつつ夢中で読み進める。はじめのエピソードにある、未開の惑星をアンドロイドが開墾するくだりで想像力が刺激され、本の世界に飛んだ。土を耕し、町を作り、そこで生きようとする何者かの姿が垣間見えた。こういうのがとても好きなのだと再確認する。

面白い本は尽きない。

スペース金融道
著者:宮内悠介
発売日:2016年08月
発行所:河出書房新社
価格:1,728円(税込)
ISBNコード:9784309024936

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深緑野分 Nowaki Fukamidori
1983年神奈川県生まれ。2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。2013年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。2015年、初めての長編小説『戦場のコックたち』が直木賞、本屋大賞、大藪春彦賞、日本推理作家協会賞にノミネートされ、各ミステリーランキングで上位にランクインした。


(「新刊展望」2016年11月号より転載)

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