• 貫井徳郎『北天の馬たち』インタビュー「僕が考える男の友情とは、こういうものです」

    2016年09月24日
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    日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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    〈貫井徳郎さんの『北天の馬たち』文庫版がこのほど発売されました。単行本刊行時(2013年10月)のインタビューを再掲載します。〉

    北天の馬たち
    著者:貫井徳郎
    発売日:2016年09月
    発行所:KADOKAWA
    価格:821円(税込)
    ISBNコード:9784041046081

    「出身が本格ミステリー畑ということもあり、僕にとってはトリックやどんでん返しこそが大切なものでした。人間描写には興味がなかったんです(笑)。結構最近まで、そんな気持ちでいました」

    そう語る貫井徳郎さんが、初めて「トリック」を封印し「人間描写」に力点を置いて執筆したのが、2012年に直木賞候補にもなった『新月譚』である。以降の作品は「自分の中でも大きく変わった」という。今作『北天の馬たち』は、『新月譚』以後の著者が到達した、まさに新境地といえるもの。深く豊かな人間ドラマに心揺さぶられる、美しいミステリーである。

    「自分が書いたことのないものへの挑戦として、友情についての物語をまず考えました。嘘も裏切りもない友情です。普遍的なテーマではあるけれど、僕自身は今まで書いてこなかった。その理由は、書いてみてわかりました。裏切りやどんでん返しが常だった作風に、友情というテーマは合わなかったからなんですね」

    横浜・馬車道近くの喫茶店《ペガサス》。毅志は、その店の若きマスターである。ある日、2階の空き室に入居希望の男たちがやってくる。皆藤晋と山南涼平。ふたりは2階で《S&R探偵事務所》を開業した。毅志は彼らの探偵仕事を手伝い始めるが、そこに一つの計画が仕組まれていたことを知ってしまう。それは、ある人物を陥れようとするものだった。皆藤と山南の目的とは。そしてそこに隠された真実とは─―。

    端正で優しく、ミステリアスな皆藤と山南。ふたりに憧れ、認められたいと願う毅志。著者が描く「友情」は、皆藤と山南、同時に毅志と皆藤&山南のものでもある。さらに物語の終盤、張り巡らされた伏線がすべてつながり、真実が明らかになったとき、もう一つ違った形の友情が姿を現してくる。

    「友情をそれほど信じていない人もいるのかも知れない。でも、僕が考える男の友情とは、こういうものです」

    横浜を舞台にした私立探偵小説として、馬車道、イセザキモール、みなとみらい、さらには寿町や新港埠頭……横浜の街が丁寧に描き込まれているのも、本作の妙味だ。

    「特定の土地を描くこと。それも自分にとっての新しい挑戦でした。書くにあたって横浜中を歩き回り、改めてこの土地が好きになりました」

    本作を出版した2013年10月に作家デビュー20周年を迎えた。

    「振り返ると、あっという間でした。気分的には、新人とはさすがに言わずとも新鋭くらいのつもりです。7、8年目頃の新鮮な気持ちを常に保っていきたいと思います」

    そうは言っても、20年のキャリアがこの作品に結実していることは間違いない。20周年記念作品の名にふさわしい、極上の長編小説である。

    切なくも美しい「友情」という名の絆の物語。ラストシーンの余韻をそっと抱きつつ、巻頭に置かれた「ペガスス座」の解説引用に立ち返ってみてほしい。胸に迫るものが、きっとある。


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    貫井徳郎 Tokuro Nukui
    1968年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。1993年、鮎川哲也賞の最終候補作『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞。同年『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞を受賞。その他の著書に2017年2月映画公開の『愚行録』、『新月譚』『微笑む人』『ドミノ倒し』『私に似た人』『我が心の底の光』『女が死んでいる』等がある。


    (「新刊展望」2013年11月号「著者とその本」より)common_banner_tenbo

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