cover3-fix%e3%81%ae%e3%82%b3%e3%83%94%e3%83%bc_01

あさのあつこ『ミヤマ物語』インタビュー 今を生きる少年少女たちに伝えたい思い

2016年09月24日
楽しむ
日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
Pocket

〈あさのあつこさん『ミヤマ物語』の第三部文庫版がこのほど発売されました。単行本刊行時(2013年1月)のインタビューを再掲載します。〉

ミヤマ物語 第3部
著者:あさのあつこ
発売日:2016年09月
発行所:KADOKAWA
価格:778円(税込)
ISBNコード:9784041041987

闇の世界にある村〈ウンヌ〉で、最下層身分の民として生きる少年ハギ。一方、現実の世界には、イジメに苦しむ小学6年生の透流(とおる)がいた。死を考えた透流は、クスノキの大樹の声に導かれて〈雲濡(うんぬ)〉村に行き、そこでハギと巡り会う。大切な人を救い出すため、そしてウンヌの掟を正すために戦う二人は、かけがえのない友となる。命がけの冒険が幕を閉じたとき、それぞれの世界に戻った少年たちの内には、過酷な現実に立ち向かう勇気と希望が生まれていた─―。

あさのあつこさんのファンタジー『ミヤマ物語』は、『バッテリー』『NO.6』ほか少年少女向けとして世に出た多くのあさの作品がそうであるように、大人の心もつかむ物語である。このほど文庫版が発売となった第三部『偽りの支配者』はいよいよ完結編。手に汗握るクライマックスでは、ウンヌの支配者〈ミドさま〉の正体も明らかになる。

「この先どうなるのか、自分がドキドキしながら(笑)、ハギと透流が動くままに書きました。ハギの世界の身分制、透流の世界のイジメという理不尽な現実に、二人がどう挑んでいくか。そのプロセスを丁寧に書こうと思いました」

〈ミヤマ〉は深山、美山。その懐には「闇」が抱かれている。

「私は山間(やまあい)の町に暮らしているので、人工の光が届かない闇だまりみたいなものを夜の山道で見ることもあります。そこには何がうごめいても不思議ではない。闇は、私にとって物語の宝庫なんです」

異世界ウンヌでのさまざまな体験を経て、透流は思う。〈死ななくてよかった。生きていてよかった。ハギに出会えてよかった〉〈死はすべてを閉ざす。だから、死んではいけない〉と。

「この部分には、書き手としてというよりも親として、大人としての思いが飛び出してきましたね。この作品を書き始めた頃も書いている最中もそして今も、自ら命を絶つ人たちがいます。大人ならば、各々の事情があるも知れない。でも十代の人たちが死を選ぶことは、 絶対にしてはならないんです。なぜなら、今は辛く苦しくても状況は必ず変わっていくから。一日後、一か月後、一年後、別の場所に行ける可能性があるから。それが子どもであり、若いということです。数十年生きてきた大人として、そのことを伝えたいです」

ハギと透流のように、自分を支えてくれる友と明日、出会えるかも知れない。あるいは一冊の本、絵、音楽、誰かの言葉との出会いが、世界を変えてくれるかも知れない。それが一年後、もしかしたら数年後であるとしても、どうか自分の未来を信じてほしい。著者のそんな強い思いが、物語からあふれ出してくる。

「幼年童話やファンタジーを書くときも、物語の根っこは自分の現実や今の社会にある」という。たとえばウンヌの身分制度も、あながち遠い世界の話ではない。現在の日本には格差社会と名を変えて存在している。『ミヤマ物語』は、今を生きる私たちを勇気づけてくれるのである。

ミヤマ物語 第1部
著者:あさのあつこ
発売日:2016年05月
発行所:KADOKAWA
価格:562円(税込)
ISBNコード:9784041041963
ミヤマ物語 第2部
著者:あさのあつこ
発売日:2016年07月
発行所:KADOKAWA
価格:648円(税込)
ISBNコード:9784041041970

あさのあつこさんあさのあつこ Atsuko Asano
1954年岡山県生まれ。青山学院大学文学部卒業。小学校講師を経て1991年『ほたる館物語』で作家デビュー。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞、『バッテリー』シリーズで小学館児童出版文化賞を受賞。2011年『たまゆら』で島清恋愛文学賞受賞。児童文学からヤングアダルト、一般小説、ミステリー、SF、時代小説など、その著作は幅広いジャンルに亘る。『NO.6』シリーズ、『ヴィヴァーチェ』シリーズ、『弥勒の月』シリーズ、『燦』シリーズ、『ガールズ・ブルー』『火群のごとく』『敗者たちの季節』ほか著書多数。


(「新刊展望」2013年3月号「著者とその本」より)
common_banner_tenbo

【あさのあつこさん関連記事】
高校野球に関わる人たちのリアル『敗者たちの季節』著者・あさのあつこさんインタビュー

Pocket

  • ほんのひきだし公式Instagram

    ほんのひきだし公式Instagram
  • 関連記事

    ページの先頭に戻る