朝井リョウ

朝井リョウ『何様』インタビュー:『何者』よりもっと広く、もっと遠くへ 『何様』に込められた作家・朝井リョウのいま

2016年08月31日
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日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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『何様』に込められた作家・朝井リョウのいま

朝井リョウさん

2013年に直木賞を受賞した『何者』がこの秋、映画化される朝井リョウさん。自作の映画化はデビュー作である『桐島、部活やめるってよ』に続いて2回目。

『何者』の試写を観た感想を尋ねると、「『桐島、部活やめるってよ』の時はストーリーを大きく変えてくださっていたので僕が考えたものではない感じがして、〈すごくおもしろい〉と言えたんです。『何者』はほとんど僕が考えた話のまま進んでいったので、物語の筋がおもしろいかどうかは正直わからなくて。ただ(劇団ポツドール主宰の)三浦大輔さん(監督・脚本)が撮ってくださったということで、演劇のシーンやラストに三浦監督ならではの演劇的演出や個人的な思い、怒りのようなものが加わっていたので、映画にしてもらえた意味があったなと思っています」。

 

派手に“山”を崩すには

何者
著者:朝井リョウ
発売日:2015年07月
発行所:新潮社
価格:637円(税込)
ISBNコード:9784101269313
何様
著者:朝井リョウ
発売日:2016年08月
発行所:新潮社
価格:1,728円(税込)
ISBNコード:9784103330622

『何者』は同じ大学に通う5人の学生が、就職活動を通して自分が「何者」であるかを模索していく物語。大学の劇団に所属していた拓人と、同居人でバンド活動を引退したばかりの光太郎、光太郎の元恋人である瑞月、瑞月の留学仲間で拓人たちと同じアパートに住む理香と同棲中の隆良は、就活対策のため度々集まるようになる。彼らのやりとりやツイッターのつぶやきから垣間見える、迷い、恋愛、友情、自意識、本音……。就活という試練の中で「自分」という存在と「生きていくこと」に直面し、懸命にもがく若者たちの姿をリアルに描き出した作品だ。

この度発売された新刊『何様』は『何者』のアナザーストーリー集と銘打たれた6篇からなる短編集だが、いわゆるスピンオフとはいささか成り立ちが異なっている。1篇目から3篇目は、それぞれ別のアンソロジー用に依頼されて書かれたものだ。

1篇目の『水曜日の南階段はきれい』は光太郎が主人公。彼は『何者』で出版社を志すのだが、そのきっかけとなった高校時代の恋が描かれる。

「これは、実は本編(=『何者』)より前に書いたものなんです。〈最後の恋〉がテーマのアンソロジーだったので、相手の女の子にとってある意味での〈最後の恋〉を書きました。その後に光太郎というキャラクターを借りて書き始めたのが『何者』です」

2篇目の『それでは二人組を作ってください』は、〈二人暮らし〉がテーマ。「当時、シェアハウスを舞台にした『テラスハウス』というテレビ番組にハマっていて、どうにかして小説の中に入れたいなと思っていた時に依頼をいただきました。シェアハウスと二人暮らしは似ているところがあるし、そういえば理香と隆良が一緒に住み始めるきっかけは決めていたけれど書いていない。理香は同性と二人組になれない女性をイメージしています。僕はどちらかというと意地悪な人間だとは思っているのですが、ゲラを読み返してみたら、この話を書いていた自分が想像以上に意地悪で傷つきました(笑)」

女子ならではの「二人組」へのこだわりは、同性なら必ずや身につまされるだろう。その痛みに十分さらされた後に訪れるラストは衝撃的だが、それは朝井さんの狙い通り。一つ一つのモチーフを積み重ねていく構造的な作品であり、「最後にこの山が一番派手に崩れるにはどこに穴をあければいいか、それを組み立てている時間が好きなんです」。『何者』でも味わった、ガラガラと足元が崩れ落ちる感覚は短編でも破壊力抜群。「この後の二人の生活が本編に存在しているからこそ書けた、サイドストーリーならではのラスト」でもある。

3篇目は拓人の劇団の先輩である沢渡(サワ先輩)が登場する、クリスマスがテーマの『逆算』。デリケートなある数字がキーとなり、サワ先輩の人柄が滲み出る、6篇中もっとも微笑ましい一篇だ。

「今年の年末に出るアンソロジーのために書いたものです。クリスマスというテーマのもとディズニーランドというベタな場所に行くけれど、そこに行く理由がものすごく捩れている、そんな作品にしたくて展開を考えました」

▼第1篇『水曜日の南階段はきれい』が収録されている『最後の恋 MEN’S―つまり、自分史上最高の恋。』と、第2篇『それでは二人組を作ってください』が収録されている『この部屋で君と』。

最後の恋MEN’S
著者:朝井リョウ 伊坂幸太郎 石田衣良 荻原浩 越谷オサム 白石一文
発売日:2012年06月
発行所:新潮社
価格:637円(税込)
ISBNコード:9784101250557
この部屋で君と
著者:朝井リョウ 飛鳥井千砂 越谷オサム 坂木司 徳永圭 似鳥鶏 三上延 吉川トリコ
発売日:2014年09月
発行所:新潮社
価格:637円(税込)
ISBNコード:9784101800059

 

外見(そとみ)と中身のギャップを描く

アンソロジーへの執筆依頼が続き、「『何者』からキャラを借りて、本編では書ききれていないエピソードを解決して補填するような話にしよう」と書いたのが前述の作品。後半は選ばれる側を描いた『何者』に対して、就活生を導く講師や面接官といった“選ぶ側”の物語が綴られていく。

5篇目の『むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった』は就活生向けのセミナーで講演を行うマナー講師が主人公。

「個人的にとても好きな作品です。これも、ラストに向かっていかに段階を踏んでいくかという話。『何者』の三浦監督は男女の性に関する作品を多く作っている方なのですが、この話を読んで〈理詰めのエロが面白かった。途中でもういいよ、ヤりなよ、許すよ、という気持ちになった〉とおっしゃっていて(笑)。このくらい段階を踏ませてあげないと、この主人公は性欲に負けられないんですよ」

主人公は、ずっと優等生で通ってきた35歳の独身女性。2人姉妹の妹や両親に長女ならではの鬱屈を感じていて、仕事も下降気味。そんな彼女はあるセミナー会場で一人の男性会社員と知り合う。彼は瑞月の父であり、問題のある妻を抱えていた。彼に自分と同じ匂いをかぎ取った主人公は――。

「社会人になってみんな言うのが、年齢や肩書きに自分の中身が追いついていないということ」。「正しいこと」を教えるセミナー講師も、就活生の合否を決める面接官も、その内面を覗き込めば迷いのない人間なんて皆無に等しいだろう。その不安を間に挟み、『何者』と『何様』の2作が「パタッとサンドイッチのように合わさる感じが書けたらいいなと」。

『何者』を書き下ろした時は会社員をしながらの「兼業作家」だった朝井さん。作品にも自身が体験した就職活動や会社員になって感じたことが反映されている。

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