• 〈書評〉ニッポン人の常識を疑え!  文・東 えりか

    2016年09月02日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    日本在住の外国人が「納豆が好き」というと好感度は俄然アップする。ほとんどの日本人は納豆をこの国固有の独特の匂いと粘りを持つ食べ物だと思っているだろう。しかしそれは間違いだった。

    『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉』はノンフィクション作家の高野秀行がこの問題に気付き足で調査を重ねた1冊だ。始まりは14年前、ミャンマー北部のカチン州で取材をしたときだった。小さな村で食べた夕食が白いご飯と生卵とよく糸を引く納豆だったのだ。それ以前でもタイの麻薬王の取材で土地の納豆と言われるものを食べ、懐かしい思いをしたこともあった。

    調査することを決定づけたのは2013年にタイのシャン族語を習ったときだ。先生から多種多様な納豆料理を教えられた。「アジア納豆」と名付けた豆の発酵食品を探し、タイ、ミャンマー、ネパール、インド、中国、ブータン、ラオスと渡り歩くことになる。

    なぜ各国で食べられるようになったのか。納豆菌ってどんなもので、どこに存在しているのか。いつから食べられているものか。納豆のルーツを探る旅は深淵な文化論にまで辿りつき、学術書に匹敵する内容となった。未知の納豆はまだまだありそうだ。食べて作って納得する。そんな高野秀行の旅はさらに続いていく。

    謎のアジア納豆
    著者:高野秀行
    発売日:2016年04月
    発行所:新潮社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784103400714

    日本全国、どこへ行ってもマナーやルールを促す看板や張り紙、放送で溢れている。あれをするな、これを守れ、××に注意しろ、とうるさいほどだ。ノンフィクション作家の髙橋秀実は電車の中で泣き喚く子供を叱りつける母親と注意する外国人女性を見てマナーとルールの違いを考えるようになった。

    『人生はマナーでできている』は日常生活の様々な行為を、あらためて日本人が行う「マナー」という視点から調査したルポルタージュだ。「おじぎをする」「挨拶する」「食べる」「匂う」などなど、言われれば確かにそんな気がするというマナーが並ぶ。

    例えば「おじぎ」には3種類あるという。最敬礼は天皇陛下にのみ行う最も重い敬礼で上体を45度倒す。目上の人には30度、同等や目下には15度と角度は浅くなっていく。昭和16年に文部省が制定した「礼法要項」に則り「礼儀を正しくすること(中略)国防国家の建設を国策とする現時に於いては、礼の意義が一層大であることを忘れてはならない」のだそうだが、終戦後は皮肉にも一億総懺悔という結果に終わる。

    満員電車のマナーも秀逸だ。ぎゅうぎゅうの中、人に迷惑をかけていないかに気を配る。身だしなみ、態度を律し、修行のように乗るのだという。

    巷にはマナー本が溢れているが、本当に必要なものはひとにぎりしかないだろう。さまざまなマナーを紹介する本書を読むと正直どうでもよくなってくる。最小限のものだけ、守って生きていきたい。

    人生はマナーでできている
    著者:高橋秀実
    発売日:2016年04月
    発行所:集英社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784087816099

    昨今のテレビでよく見る「外国人から見た日本の良いところ」は、見れば誇りに思うし気持ちがいい。でも、それを日本人自身が褒めるのは違うのではないか。

    早川タダノリ『「日本スゴイ」のディストピア』は戦争中に出版された日本人が書いた日本礼讃本の中から「日本主義」「礼儀」「勤労」など、現代にも通ずるキーワードごとに、膨大な本を吟味していく。こんなことが大真面目に語られていたかと驚くばかりである。

    主な項目には立派な日本人、海外で活躍する日本人、美術や工業製品への海外からの賞賛、肉体的自慢、日本が持つ世界一の記録があり、最近のマスコミ、特にテレビ特番と全く変わりがない。

    笑いながら読むうちに、なぜか背筋が寒くなってくる。これって今の状況と似ていないだろうか。礼儀正しく美しい人や賢い人は外から見て認められてこそ、だろう。日本人の美徳のひとつ「謙虚」を思い出すべき時なのかもしれない。

    「日本スゴイ」のディストピア
    著者:早川タダノリ
    発売日:2016年06月
    発行所:青弓社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784787220653

    (「新刊展望」2016年9月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)

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