〈書評〉恋愛・結婚に悩む男女を描く  文・末國善己

2016年09月01日
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日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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ミステリー〈猫弁〉シリーズで人気の大山淳子は、小説家デビュー前に「三日月夜話」で新人脚本家を発掘する城戸賞を受賞していた。同作を小説として書き直したのが、『牛姫の嫁入り』である。

徳川家宣の治政下。派遣の美女忍びコウは、旗本の加納光政から、美貌の娘を大名に嫁がせている藤代好継の娘を誘拐し、息子と見合いをさせて欲しいと頼まれる。

光政が目を付けた重姫は美女と評判だが、ここ10年人前に出ていなかった。藤代家の屋敷に忍び込んだコウは、牛のように太った重姫を発見。重姫を運び出せず捕まったコウは、1ヶ月で重姫を美しくするので、見合いを認めて欲しいとの取り引きをもちかける。

ここからユーモラスなダイエット指導が始まるのだが、本書の眼目はコウと重姫の奮闘ではない。

重姫が太った理由が明らかになると、人生が自由に選択できない鬱屈、家族への複雑な感情など、重姫が現代の女性と変わらない問題を抱えていた事実が浮かび上がってくる。これはコウも同じである。太平の世において忍びは斜陽産業。しかもコウは派遣なので、現代の非正規社員のように常に職を失う危険に直面していたのだ。

それだけに、不自由な境遇にあるコウと重姫が、ダイエットを通して成長する展開は、明るく前向きな気分にしてくれるだろう。

牛姫の嫁入り
著者:大山淳子
発売日:2016年05月
発行所:KADOKAWA
価格:1,728円(税込)
ISBNコード:9784041041154

『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』は、『虹猫喫茶店』や『ウィメンズマラソン』などで知られる坂井希久子の初の時代小説。

主人公は、微禄の旗本の次男坊だが、鶯を美声に調教する仕事で家計を支えている林只次郎。ある日、トラブルを抱えた只次郎は、話すと気鬱が消えると評判の女将お妙がいる居酒屋ぜんやを訪れる。美人のお妙に一目惚れした只次郎が、美味しい料理に舌鼓を打ちながら、周囲で起こる事件に立ち向かうのが物語の基本となる。

林家の上役から預った鶯が消える「笹鳴き」は、周到な伏線から犯人の意外な動機が明らかになる緻密な構成が鮮やか。上方出身の妻が、江戸の料理を食べないという男の悩みを解決する「六花」は、料理と謎解きの融合が見事である。このように物語は1話完結で進んでいくが、只次郎の周辺をかぎ回る怪しい男が現れる「冬の蝶」以降は、男の目的と男を操る黒幕の正体が物語を牽引するので、長編としても楽しめる。

只次郎は、事件の真相を究明するよりも、関係者が誰も傷つかない落とし所を探ることに心を砕くので、客の心を癒すお妙の料理のように、温かい気持ちで本を閉じられるのではないだろうか。

暗い過去があるお妙、そんなお妙に想いを寄せる只次郎の恋の行方を含め、まだ積み残された伏線も多いので、続編も期待したい。

ほかほか蕗ご飯
著者:坂井希久子
発売日:2016年06月
発行所:角川春樹事務所
価格:626円(税込)
ISBNコード:9784758440004

浮穴みみ『めぐり逢ふまで 蔵前片想い小町日記』は、蔵前小町と呼ばれるほどの美人なのに、23歳になっても結婚できない札差の娘おまきの婚活を描いている。

おまきが結婚できない最大の理由は、子供の頃に誘拐され、その危機を救ってくれた謎の武士「光る君」が忘れられないこと。

おまきは、コンプレックスのくせ毛を褒めてくれた蘭方医の弟子を好きになるも、彼が師匠の年増の娘にいい寄られているとの噂を聞いてしまったり、絵を習い始めたら美男子の兄弟子に一目惚れしたりと、次々と恋に落ちていく。

おまきが目の前の相手を選ぶのか、それとも「光る君」を探し続けるのか―この先の読めない展開が、恋愛物語をよりスリリングにしているのは間違いあるまい。

作中には、理想の人を追い続けるおまきを筆頭に、困難な恋愛に挑む男女や、恋愛や結婚を理性的に捉えていたのに、運命の恋に落ち感情のまま行動してしまう女などが登場するので、必ず共感する人物が見つかるように思える。

めぐり逢ふまで
著者:浮穴みみ
発売日:2016年05月
発行所:早川書房
価格:864円(税込)
ISBNコード:9784150312305

(「新刊展望」2016年8月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)

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