• 「新耳袋」の怪談作家・木原浩勝さんが体験した「ことでん」と宮脇書店とのステキな旅

    2016年08月11日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    「新耳袋」「九十九怪談」「隣之怪」などの怪談シリーズを手掛ける木原浩勝さん。でも今回お届けするのは怖くない、さわやか系のエッセイです。四国・高松に本店のある宮脇書店と、讃岐平野を走るかわいい電車「ことでん」にまつわる、とってもステキなお話なのです。

    木原浩勝さん03

    木原浩勝
    きはら・ひろかつ。1960年兵庫県生まれ。アニメ制作会社トップクラフト、スタジオジブリを経て、1990年『新・耳・袋』で作家デビュー。「新耳袋」「九十九怪談」「隣之怪」シリーズや『禁忌楼』など怪談作品を次々発表。怪談トークライブやラジオ番組も好評。『空想科学読本』『このアニメがすごい!』『怪獣VOW』『怪談四代記 八雲のいたずら』などの企画プロデュースも。新シリーズ「現世怪談」の『招かざる客』『主人の帰り』好評発売中。

     

    宮脇書店さんと讃岐平野を走る 文・木原浩勝

    怪談ばかりを書いている作家の私の所に不思議なお誘いが舞い込んだ。

    平成26年7月21日に四国・香川県の「ことでん」で「アイリッシュパブトレイン」と名付けられた4両電車が高松築港駅から琴電琴平駅を往復するという。

    つまり、その名の示す通りアイルランドが生んだギネスビールを樽ごと車内に持ち込んで、アイリッシュパブにするんだけど乗りませんか? というのだ。

    そもそもなぜ東京在住の私に声が掛かったのか?

    この年、私は「名探偵コナン」の名プロデューサー・諏訪道彦さんと、「犬夜叉」や「金田一少年の事件簿」の音楽を手がけた和田薫さんと共に、アイルランドのゴールウェイ大学で、日本のアニメと文化を語る特別講演をしたのがご縁となったのだ。

    もちろん喜んで参加表明させて頂く。

    しかし、夏に怪談作家がただお客様として乗っているだけでは、いまいち参加感が足りない気がする。

    そこで高松市に本店のある宮脇書店さんに、「出発点の高松築港駅のホームで、特別出張販売する企画ってどうでしょうか? 私は宮脇さんの店員の皆様と共に怪談本の完売目指して頑張りますので……」とご協力をお願いした。

    当日の朝、ホームには仮設と呼ぶには立派すぎる店が出来ていた。いわば“宮脇書店高松築港駅ホーム木原浩勝怪談本専門販売支店”だ。(店名、長っ!!)

    「流石は宮脇書店さん!」と私は狂喜乱舞した。

    ところがお客様の目はアイルランド色の緑に染まったパブトレイン。心はどうしても本に傾いてくれない。

    迫り来る発車時間。

    このままでは約束が守れない!

    「本とお釣りを持って電車に乗り込みましょう! 車内販売に切り替えるんです!」

    そこへ出発の警笛。悩んでいる暇などありません。

    私は急いで段ボールに本を詰め込むと、店員さんと共に電車へと飛び込んだ。

    少し不安そうな店員さん。

    ここで私は啖呵を切りました。

    「目標は完売です。販売は私にお任せ下さい!」

    いきなりアイリッシュパブトレインの宮脇書店車内移動販売の旅が始まった。

    それも、どれだけ本の内容を聞かれても全て明快に、流暢に解説できる著者付き。電車のパブも珍しいがそのパブ内の本屋さんはもっと珍しい。

    特別な環境には特別な心理が働く。

    「本日の記念に一冊いかがですか? 目の前で著者の私がサインを入れさせて頂きます!」

    日頃は本屋に行かない、普段は本を買わない、あまり本は読まないとおっしゃるお客様までも「それだったら記念に一冊」と笑って財布の紐をといて下さったのだからありがたい。

    一両一両販売しながら折り返し地点の琴電琴平駅へ。

    復路は思わぬことが味方をしてくれた。

    緑の讃岐平野を駆け抜ける車内で、アイリッシュ音楽の生演奏を聞きながら知らない者同士で酌み交わすビール。これらが心を解きほぐしてくれたのだ。

    よし俺が買ってやる! 私もお友達の分を買うわ! とお声掛け下さり、とうとうほぼ完売となった。

    へとへとに疲れた店員さんから、「誰にでもしっかりと丁寧に本の説明をしてまわるってとっても大事なんですね。販売の原点に戻った気がしました」と光栄な言葉を頂いた。

    申し訳ありませんが機会があったら、またよろしくお願いします、宮脇書店様。

     

     著者の新刊 

    現世怪談 招かざる客
    著者:木原浩勝
    発売日:2016年06月
    発行所:講談社
    価格:1,296円(税込)
    ISBNコード:9784062201049

    六甲山の無限ループに現れた大鳥居!? 死者から叩き付けられたダイヤの指輪!? 雑木林に突然現れた「どこでもドア」!? この世で起きた 奇妙で恐ろしき怪異の数々。「新耳袋」「九十九怪談」著者の新シリーズ誕生! 日本各地には今なお多くの怪異が目撃されているという。著者が現地へ足を運び、蒐集した21の実話怪談。

    講談社BOOK倶楽部『現世怪談 招かざる客』より)

    現世怪談文庫版 一
    著者:木原浩勝
    発売日:2016年07月
    発行所:講談社
    価格:616円(税込)
    ISBNコード:9784062934411

    本当に存在した「デスノート」。貨物列車に無限に轢かれる男。あの『新耳袋』著者の最新シリーズ! 「怖くなければ怪談ではないが、怖いことが怪談の全てではない。」 帰らぬ人となった夫は寿司屋の主で誰からも愛されていた。遺された妻は常連客から夢に夫が現れた話を聞かされ複雑な思いを抱える。そんな話も途絶えたある晩、突然目を覚ました妻は……(「主人の帰り」)。「新耳袋」「九十九怪談」の著者が未来に語り継ぎたい、恐怖と感涙の実話怪談新シリーズ、文庫版第一弾。

    講談社BOOK倶楽部『文庫版 現世怪談(一)主人の帰り』より)


    (「日販通信」2016年8月号「書店との出合い」より転載)

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