信長でも秀吉でもなく、家康こそが天下人たりえた理由とは?伊東潤による本格歴史小説『峠越え』

2016年08月10日
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日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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〈伊東潤さんの『峠越え』文庫版がこのほど発売されました。単行本刊行時(2014年1月)に寄せていただいたエッセイを再掲載します。〉

峠越え
著者:伊東潤
発売日:2016年08月
発行所:講談社
価格:756円(税込)
ISBNコード:9784062934565

 

峠を越える力 伊東潤

誰にとっても問題や悩み事はあります。問題を抱えて生きるのが人間と言ってもいいでしょう。
しかも問題を一つ解決しても、新たな問題がすぐに発生します。
生きるとは、問題を解決するための修行ではないかと思えるほどです。
しかし眼前の問題から逃避してしまっては、新たな問題に対処する力は養えません。
峠を越えるように、一つひとつの問題を解決していくことによって、人には生きる力が付いていくのです。
私の経験から言うと、仕事で実績を上げている人は皆、問題解決能力に優れています。
その秘訣は「とことん考える」ことです。実績の上がらない人は、途中で考えることをやめてしまいます。つまり「そんなことは無理だ」と、思考停止してしまうのです。
確かに、世の中は無理なことだらけです。それでも立ち止まって考えてみて下さい。解決の糸口は、意外に簡単なところにあったりします。

この物語は、徳川家康という凡庸な男が、次々と立ちはだかる問題を、いかに乗り越えていったかを描いたものです。
歴史を結果から見れば、家康が天下人となったのは、必然のように思えます。しかし実際は、極めて少ない可能性をものにしていったのです。
家康の生涯は、常に誰かの下風に置かれていました。寄親には今川義元が、敵には武田信玄や勝頼が、そして同盟者には織田信長がおり、常に家康は、彼らと己の才能の差を感じていました。
しかし、それだからこそ家康は、己の凡庸さを知ることができました。
戦国の世にあって、家康が天下を取れたのは「己を知ること」、つまり自分の力量を心得ていたからにほかなりません。
家康は、問題すなわち峠を越えるために懸命に知恵をめぐらせました。己が凡庸と知っていたからこそ、無理をせず一歩一歩、慎重に坂を登っていきました。
そして最後に、「凡庸だからこそ、越えられる峠がある」ということに気づいたのです。
この小説を通じて、家康から学んでいただければ幸いです。
もちろん、それだけでは小説の存在意義は満たせません。
後半では、強烈な仕掛けを用意しています。
歴史解釈力、教訓性、そして物語性を、これまで以上に融合させたこの作品を、一人でも多くの方に読んでいただきたいと思っています。
絶対、面白いですよ。


伊東潤さん2

伊東潤 Jun Ito
1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒。外資系企業に長らく勤務の後、執筆業に転じる。『黒南風の海――加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』で「本屋が選ぶ時代小説大賞2011」、『義烈千秋 天狗党西へ』で第2 回歴史時代作家クラブ賞作品賞、『国を蹴った男』で第34回吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で第4 回山田風太郎賞および第1回高校生直木賞、『峠越え』で第20回中山義秀文学賞を受賞。近著に『横浜1963』『敗者烈伝』『吹けよ風呼べよ嵐』『天下人の茶』『鯨分限』など。

歴史小説家・伊東潤さんが、昔も今も好きな本屋さん(有隣堂伊勢佐木町本店)


(「新刊展望」2014年3月号より)

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