• 〈書評〉心に残る、昭和の銀幕のスターたち  文・東えりか

    2015年05月28日
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    日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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    昭和の名優の訃報が続いている。高倉健に続いて菅原文太も逝った。映画「トラック野郎」でコンビを組んでいた愛川欽也もその後を追うように亡くなった。昭和の芸能界は歴史になろうとしている。

     

    三田完『あしたのこころだ―小沢昭一的風景を巡る』は小沢昭一というマルチな才を持った俳優の足跡をたどる一冊である。

    あしたのこころだ
    著者:三田完
    発売日:2015年03月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784163902227

    TBSラジオの名物番組「小沢昭一的こころ」は1973年から1万回を超える名物番組であった。小説家でもある三田はその番組の筋書作家として最後の番組を担当した。お通夜の手伝いを頼まれ、小沢昭一の盟友である永六輔、野坂昭如、矢崎泰久たちの哀しみを目の前で見た。黒柳徹子は小沢が大好きだったセーラー服の写真を見せて語りかける。丁々発止に行われた二人の会話を思い出す。

    小沢昭一の面影をもう一度胸に焼き付けたいと、番組の番外編を書くつもりで、小沢昭一ゆかりの地を訪ねていく。相棒は40年の長きにわたり、番組で小沢とコンビを組んでいた「ノー天気プロデューサー」こと坂本正勝。これがなかなかの珍道中なのだ。

    小沢のお墓のある向島、俳人としても有名だった小沢の句碑がある下諏訪温泉、俳優の基礎を作った蒲田、色事のイロハを教わった亀戸天神。行く先々で出会う小沢昭一はみんな違う顔を持っていた。こういう洒脱なおじさん、最近はなかなか見ないなあ、と懐かしくなった。

     

     

    日本を代表する俳優16人に春日太一がインタビューした『役者は一日にしてならず』は銀幕のスターたちの素顔が見え、昭和芸能史の資料としても貴重な一冊である。

    役者は一日にしてならず
    著者:春日太一
    発売日:2015年02月
    発行所:小学館
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784093798693

    1933年生まれの平幹二朗から1952年生まれの草刈正雄まで、長い間、第一線で必要とされる俳優ばかりである。夏八木勲や蟹江敬三は、生涯最後のロングインタビューとなった。

    若い頃は主役を張り、映画やテレビをけん引してきた人たちでも、歳とともにわき役に回る。二枚目俳優だった近藤正臣は、容色が衰えたことを自覚したときから、悪役にまわった。それが面白くなったと語る。

    彼だけでなく、脇役にまわることに魅力を感じる俳優は多い。善人より悪人。主役だったころは自分のことだけ考えればよかったが、歳とともに経験を得て、主役を立てることが面白くなり、若い俳優に対する見方も違ってくる。

    松方弘樹、林与一、杉良太郎など時代劇のスターたちが殺陣を身につけるくだりは、現代の役者に必要なことだと思う。

    彼らが憧れた若山富三郎、阪東妻三郎、大川橋蔵のような大スターはもう出てこないのかもしれない。芝居への考え方を読むだけで、今まで辿ってきた苦闘を知ることができる、貴重な一冊だ。

     

     

    80歳を過ぎても、主演を求められる女優もいる。今年5月に公開された「ゆずり葉の頃」で主演を務めるのは八千草薫。『あなただけの、咲き方で』は16歳から歩んできた女優という仕事と、プライベートでの心構えを綴ったエッセイ集である。

    あなただけの、咲き方で
    著者:八千草薫
    発売日:2015年01月
    発行所:幻冬舎
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784344027145

    1931年に大阪に生まれた八千草は、1947年宝塚歌劇団に入団し娘役として活躍した。退団後も女優を続け、以来67年のキャリアを誇る。だが、元来、華やかな世界が苦手で女優に向いているのかと自問自答してきたという。

    人の心に残るような女優を目指した八千草が、最近心がけているのは「ちょっとだけ無理をすること」。精一杯頑張りすぎると周りに迷惑になるかもしれない。しかしまったく無理をしないのは、無為に過ごしているだけのようだ。だからちょっとだけ。

    今でも可愛く品のいい、できることならこういう歳の取り方をしたい。これからの人生のお手本にしたい言葉が詰まっている。

     

    (「新刊展望」2015年6月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)

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