• 〈書評〉SFを読者に贈るには  文・大倉貴之

    2016年07月06日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    毎度おなじみの「おもしろ本スクランブル」ですが、今回はわたしが当欄の担当となって初めて本誌「新刊展望」がSFを特集するということなので、まずはレジェンドたちの傑作群から紹介したいと思います。早川書房創立70周年ハヤカワ文庫補完計画としてミステリ、SF、ノンフィクションの各ジャンルから全70点が昨年3月から刊行が始まり、本年3月に全70冊が刊行済み。

    NVレーベルのダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を(新版)』も含めてSFは22作品あり、レム、ゼラズニイ、ブラッドベリ、アシモフ、クラーク、ハインラインからギブスン、ベア、バクスターまで、老舗らしく名作揃いであるのは当然で、新訳版が多く、SF初心者・久しぶりに海外SFを読もうとする方、何れにもお薦めしたい作品が揃っている。

    バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣』は大森望の新訳。〈ワイドスクリーン・バロック〉と呼ばれるSFジャンルがある。これは、密度の濃い様々なアイデアの奔流が読み手に目眩に似た感覚をもたらす作品群を指す言葉なのだ。

    高度なテクノロジーと独自の衣裳哲学によって作られたカエアン製の衣裳は、敵対しているザイオード人も魅了していた。ある時、ザイオード人のギャングたちは衣裳を満載したカエアンの宇宙船が難破したという情報を入手し、その難破船からの奪取を企むが……。ワイドスクリーン・バロックを代表するベイリーが、おそらくは「服は人なり」の時代からアフォリズム「服が着る人を支配する」へと、うつろってきた世相に着想得た作品なのだろう。奔放なアイデアがこれでもかと詰め込まれたベイリーの最高傑作。評者は1983年の冬川亘訳で読んでいるが、既読とは思えないほど面白く読めた。

    カエアンの聖衣 新訳版
    著者:バリントン・J.ベーリ 大森望
    発売日:2016年03月
    発行所:早川書房
    価格:1,080円(税込)
    ISBNコード:9784150120597

    次もハヤカワ文庫補完計画から、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『あまたの星、宝冠のごとく』は、1987年に自死した作者の最後の短篇集となる。作者については小谷真理による解説「銃口の先に何がある?」を読んでいただくとして、10篇の収録作はいずれも暗い印象だが、読み手にじっくり味わう余裕があれば深みのある作品ばかり。寓意的なファンタジー「悪魔、天国へいく」、「すべてこの世も天国も」と疑似タイムトラベルSF「もどれ、過去へもどれ」は傑作。

    あまたの星、宝冠のごとく
    著者:ジェームズ・ティプトリー 伊藤典夫 小野田和子
    発売日:2016年02月
    発行所:早川書房
    価格:1,296円(税込)
    ISBNコード:9784150120559

    宮内悠介『彼女がエスパーだったころ』は、100匹目のサル、超能力、脳治療、治療効果のある特殊な水等、疑似科学のネタのような、とらえ方によってはデリケートなテーマを小説にアップデートした6篇を収録。表題作を含むゆるく繋がった連作短篇集で、一篇ごとに「信仰」と「科学的リテラシー」のゆらぎが描かれている。現代を描くことを恐れない作者による傑作短篇集。

    彼女がエスパーだったころ
    著者:宮内悠介
    発売日:2016年04月
    発行所:講談社
    価格:1,458円(税込)
    ISBNコード:9784062199643

    川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』は、人類と地球の未来を描いた長篇小説。遠未来、衰退した人類は「母」と呼ばれる補完システムに依存しつつ小さなグループに分かれて牧歌的な暮らしをしている。「形見」から「なぜなの、あたしのかみさま」までの全14章を読み進むと、小さなグループこそが異なる遺伝子を持つグループとの交雑によって人類が新たな進化をとげる可能性の担保だったことが判ってくる。滅びゆく世界を精緻に描くのは、オビ文で筒井康隆が述べているように「作者の壮大な核」なのである。

    大きな鳥にさらわれないよう
    著者:川上弘美
    発売日:2016年04月
    発行所:講談社
    価格:1,620円(税込)
    ISBNコード:9784062199650

    アン・レッキー『亡霊星域』は、前回紹介した『叛逆航路』の続篇。かって宇宙戦艦のAIで、いまはただひとりの生体兵器“属躰”のブレクが主人公。現代宇宙SFらしい複雑な世界設定と繊細なキャラクター造形が魅力。

    亡霊星域
    著者:アン・レッキー 赤尾秀子
    発売日:2016年04月
    発行所:東京創元社
    価格:1,296円(税込)
    ISBNコード:9784488758028

    2月に亡くなった偉大な知識人ウンベルト・エーコの長篇小説『プラハの墓地』は、ユダヤ人迫害の根拠のひとつとされる偽書『シオン賢者の議定書』の成立過程を幻視した作品。SFとは異なるが、様々な歴史的事実と推察を縦横無尽に駆使して読者を迷宮に誘い込むファンタジーを想わせる作品だ。

    プラハの墓地
    著者:ウンベルト・エーコ 橋本勝雄
    発売日:2016年02月
    発行所:東京創元社
    価格:3,780円(税込)
    ISBNコード:9784488010515

    (「新刊展望」2016年7月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)

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