〈書評〉夏こそ読書  文・郷原 宏

2016年07月02日
楽しむ
日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
Pocket

「夏は閑静で綺麗な田舎へ行つて、御馳走を食べて白雲を見て、本を読んでゐたい」

これは『吾輩は猫である』を書いていたころの夏目漱石が、福岡に帰省中の門下生に送った手紙の一節。昔も今も、旅とご馳走と読書に勝る消夏法はない。今月はそんな夏の過ごし方にぴったりのおもしろ本を紹介しよう。

島田荘司『屋上の道化たち』は、名探偵御手洗潔シリーズ50作目の長篇である。自殺などしそうにない男女が、そのビルの屋上に上がると、なぜか次々に飛び降りて死んでしまう。そこにはいったいどんな呪いが秘められているのか。この奇怪な連続墜死事件の謎に、いまや伝説となった名探偵が挑む。昔なつかしい「読者への挑戦」も組み込まれていて、本格ファンは暑さを忘れて謎解きミステリーの醍醐味を堪能することができる。

屋上の道化たち
著者:島田荘司
発売日:2016年04月
発行所:講談社
価格:2,160円(税込)
ISBNコード:9784062199988

中山七里『どこかでベートーヴェン』は、名探偵にして天才ピアニスト岬洋介の「最初の事件」である。岐阜県立加茂北高校音楽科の生徒たちは、9月の発表会に向けて夏休み中も練習に励んでいた。ある日、豪雨による土砂崩れが発生し、全員が校内に閉じ込められてしまう。そのとき校舎を脱け出したクラスの問題児が何者かに殺される。殺人の疑いをかけられた岬は、身の潔白を証明するために独自に調査を開始する。この作品も筋目の正しい本格物で、最後にあっと驚くどんでん返しが待ち構えている。

どこかでベートーヴェン
著者:中山七里
発売日:2016年06月
発行所:宝島社
価格:1,598円(税込)
ISBNコード:9784800255679

藤田宜永『亡者たちの切り札』は、バブル崩壊直後の裏社会を舞台にしたハード・サスペンスの力作である。巨額の借金を背負いながら自動車修理工場で働く氏家豊は、名車マスタングで都内を流していた夜、何者かに拉致された旧友五十嵐の娘を救出する。五十嵐は勤務先の銀行で20億円の不正融資に手を染めたと告げて国外へ逃亡。赤坂の料亭の女将でマスタングの所有者澄子にも黒い影が付きまとう。借金を肩代わりしてくれた前妻の兄富沢が殺され、富沢と五十嵐の接点が浮上する。氏家は真相を究明すべく、愛車を駆って裏社会の闇を疾走する。どんな猛暑といえども、この作品の放つ物語の熱量には及ばない。

亡者たちの切り札
著者:藤田宜永
発売日:2016年05月
発行所:祥伝社
価格:1,998円(税込)
ISBNコード:9784396634957

今野敏『防諜捜査』は、警視庁外事一課倉島警部補シリーズの最新作である。「ゼロの研修」を終えた倉島に作業班への配属命令が出た直後、ロシア人ホステスの轢死事件が発生した。所轄署が事故と自殺の両面捜査を始めると、ロシア人の殺し屋オレガによる暗殺だと証言する人物が現れた。倉島は国益と公安刑事のプライドにかけて先の見えない防諜捜査を展開する。彼は果たして公安のエースになれるのか。読者として当分は目が離せない。

防諜捜査
著者:今野敏
発売日:2016年04月
発行所:文藝春秋
価格:1,728円(税込)
ISBNコード:9784163904412

近藤史恵『モップの精は旅に出る』は「おそうじ上手は謎解き上手」の名探偵キリコの「最後の事件」。英会話学校を舞台にした「深夜の歌姫」など4篇を収める。第4話「ラストケース」では、キリコ自身が引きこもりになったうえに家出(?)をしてしまう。このチャーミングな清掃人探偵には、しばしの休養が終わったら、またホームズのように復活してほしいものである。

モップの精は旅に出る
著者:近藤史恵
発売日:2016年04月
発行所:実業之日本社
価格:1,620円(税込)
ISBNコード:9784408536828

キャシー・アンズワース『埋葬された夏』(三角和代訳)は、いかにも本場英国物らしいミステリーである。20年前、ノーフォークの海辺の町で、ひとりの少女が殺人者として裁かれた。そして今、ロンドンの弁護士に依頼された私立探偵が現地を訪れて調査を開始すると、すでに終わったはずの事件が息を吹き返す。あの夏、少女のまわりで本当は何があったのか?

埋葬された夏
著者:キャシー・アンズワース 三角和代
発売日:2016年05月
発行所:東京創元社
価格:1,447円(税込)
ISBNコード:9784488270063

以上6冊、居ながらにして書中の旅人となり、旅先に携行すれば旅はさらに楽しくなるという第一級の「おすすめ本」である。


(「新刊展望」2016年7月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)

common_banner_tenbo

Pocket

タグ
  • ほんのひきだし公式Instagram

    ほんのひきだし公式Instagram
  • 関連記事

    ページの先頭に戻る