〈インタビュー〉宮下奈都さん『窓の向こうのガーシュウィン』 光に向かってゆっくりと

2015年05月21日
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日販 商品情報センター「新刊展望」編集部
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<宮下奈都さんの『窓の向こうのガーシュウィン』文庫版が、このほど発売されました。単行本刊行時(2012年5月)のインタビューをお届けします。>

「誰も死なない、大きな事件も起きない、ごく小さな世界の小さな物語。それは、私の中で好ましい小説の在り方なんです」─―宮下奈都ファンなら、すっと胸に落ちる言葉ではないだろうか。そんな著者が「自分にとってすごく大事な一冊。今書けること、書かなければいけないことを全部書いたという気持ちです」と語るのが、『窓の向こうのガーシュウィン』である

窓の向こうのガーシュウィン
著者:宮下奈都
発売日:2015年05月
発行所:集英社
価格:562円(税込)
ISBNコード:9784087453164

未熟児として生まれ、いつも「自分には何かが足りない」と感じながら育ってきた《私》=《佐古さん》。人とうまく話すことができなくて、「人と交じれず、人に好かれず」、息をひそめてどうにか19年やってきた。心落ち着くのは、団地の部屋でひとり窓から空を見上げるときだけ。高校を卒業してホームヘルパーの仕事をするようになり、派遣された《先生》の家で出会ったのが「額装」だった。先生、その息子で額装職人の《あの人》、孫の《隼》との日々と額装の仕事を通して、私の心はゆっくりほどけていく……。

「絵の雰囲気をがらりと変えてしまう『額装』に興味がありました。絵そのものは同じでも、額縁の素材で、マットの色合いで、まったく絵の印象が変わってしまう。しかし、その『額装』を、実は私たちもことあるごとにやっているのではないか、と気づいたことがこの小説につながりました。目の前にある風景も、記憶も、切り取り方で違って見える、ということに重なって見えてきたのです。いつも人とは違う切り取り方をしてしまう女の子から見た世界を書こうと思いました」

誰しも多かれ少なかれ心の中に抱くコンプレックスや生きづらさ。それをやさしく包み込んでくれるような小説だ。

「人間の成長について考えました。何をもって成長と呼ぶのか、私にはよくわからなくなることがあります。前とは違っているけれども、よくなっているのかどうかわからない、進んでいるのかどうかもわからない、ということはしばしばあります。そっと生きていた子がようやくいろいろなことに気づき、話せるようになって、ゆっくりと歩き出す。そんなイメージです」

実生活では3人の子を育てる母でもある著者。「子どもが見ている世界は自分のものと全然違う」と感じる日常から生まれた小説でもあるという。

独特の感性の持ち主である佐古さんの語彙には、言葉遊びのような楽しさがある。BGMはガーシュウィンの「サマータイム」。悲しい歌だが、それで終わりではない。佐古さんはその中に「ほうっとあたたかい窓の明かりみたいな」光が確かにあるのを感じるのだ。まさにこの「光」のように心を満たしてくれる物語。ぜひゆっくり読み進めて、琴線に触れる場面や言葉に出会ってほしい。


miyashita

宮下奈都
1967年福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒。2004年「静かな雨」が文學界新人賞佳作に入選。2012年『誰かが足りない』が本屋大賞にノミネートされる。著書に『スコーレNo.4』『よろこびの歌』『太陽のパスタ、豆のスープ』『田舎の紳士服店のモデルの妻』『メロディ・フェア』『ふたつのしるし』『たった、それだけ』『神さまたちの遊ぶ庭』など。


(「新刊展望」2012年7月号「著者とその本」より)
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