• 「納豆汁」はミャンマーやネパールでも食べている!石塚修さんと高野秀行さんが語る、奥深い「納豆」の世界:Part2

    2016年06月08日
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    日販 ほんのひきだし編集部 「新刊展望」担当
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    文学作品から日本人と納豆の関わりを探る国文学者・石塚修さん(写真右)と、「納豆」という大陸を縦横無尽に駆けめぐる辺境作家・高野秀行さん(写真左)。2人が語り合う「知られざる」納豆の姿とは。

    納豆のはなし
    著者:石塚修
    発売日:2016年05月
    発行所:大修館書店
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784469222463
    謎のアジア納豆
    著者:高野秀行
    発売日:2016年04月
    発行所:新潮社
    価格:1,944円(税込)
    ISBNコード:9784103400714

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    江戸の納豆は季節の風物詩

    高野 『納豆のはなし』は「納豆文学史」をさらに深められたものですが、よく文学の中からこれだけのことをお調べになりましたね。正岡子規と納豆の話など、すごくおもしろいと思いました。俳句は「写生」なので本来は自分が食べているものを詠むはずですが、松山出身の子規は納豆を食べていない。でも納豆汁の句は作るというのは、江戸や江戸気質への憧れなんですね。

    石塚 子規の病床日記には納豆売りも登場しています。明治になってから、納豆売りという職業が近代日本を支えてきた部分は否めないと思います。納豆売りや靴磨き、新聞配達などは朝早い時間に仕事を終えるので、その後学校に行くことができる。岩宿遺跡を見つけた考古学者の相沢忠洋さんや、小泉純一郎元首相の秘書官だった飯島勲さんなども納豆売りをしていたそうです。飯島さんは夏はアイスキャンデー、冬は納豆を売っていた。長野県辰野町出身なので、やはり信州の山の中ですね。

    高野 それはかつての納豆屋さんの話そのものですね。呼び売りは季節の風物詩でもあるし、社会状況も映していて、そこが文学的にも取り入れられたのでしょうね。

    石塚 その大衆化がいつなされたかがおもしろいところですね。江戸ではそれだけ大衆化した食品になったけれど、さきほどお話したような京北町や山国では年じゅう作っているものではなくて、ハレの日の食べ物だったりする。

    高野 それと、日本では納豆汁をどうして食べなくなったのでしょうか。

    石塚 おそらくは面倒なのと、室内環境もあるのではないでしょうか。ガラス戸が入って部屋の中が暖かくなった。逆に言えば、だからこそ寒村と言われるところでは長く残ったのだと思います。

    納豆汁というのは作ってみるとわかりますが、後の始末が大変です。匂いも立つし。そういうことで消えていったのかなと。体を温めるタンパク質がほかにない時代、本当に寒くて眠れないときに食べたんじゃないかな。熱燗を飲むときと同じで、きゅーっと体の中を通っていって腹が温まる。高野さんが調べられた場所は冷えるから食べるというイメージはあるんですか。

    高野 寒い時には納豆入りのスープで温まるというのはありますね。

    石塚 ねばねばがいいんでしょうね。とろみがついて、保温効果が長持ちする。あんかけも同じですよね。

    高野 それはミャンマーの少数民族・ナガ族やネパールの人も同じことを言っていました。納豆スープは温まるからいいと。

    石塚 高野さんが調べられた地域もだんだん都市化されると生活が変わるでしょうから、非常に貴重な記録を残されたと思います。30年も経って、みんなサッシ窓の家に住むようになったら、「昔はこんな物を食べていたのか」ということになるかもしれない。環境で食文化はまったく変わりますから。

    高野 自分も、親も食べていないと、昔からずっと食べていない物だと思ってしまいますよね。

    石塚 食べ物のことを調べていると、30年ぐらいのサイクルで変わっていくことがわかります。今後納豆のことを調べようとする人が出てくるかもしれませんが、日本でのフィールドワークはほぼ不可能だと思います。京北町でも作っているのはおばあちゃんだけで、お嫁さんの世代は作っていないので。

    いまは市販の納豆をタネに入れるので、100パーセント納豆菌で作れる人が減ってきている。タネを入れておくと発酵するのは、カスピ海ヨーグルトと同じです。

    高野 自分で藁苞(わらづと:藁を束ね、中へ物を包むようにしたもの)で作っているにもかかわらず、藁に納豆菌がいることを知らない人もいます。藁苞を単なる容器だと思っているんですね。日本の場合は、昭和30~40年代に強い農薬を使ったので、藁をそのまま食品に使うことはできなくなったようです。

    石塚 そういうさまざまな社会的環境の変化によっても、日本ではパックに入っている納豆が当たり前になっています。納豆は単純な食べ物だからこそ、上手に作るのは難しい。納豆菌は買えますから試しに作ってみるといいと思いますが、耳かき1杯でものすごい量の納豆を作ることができるそうです。原料は安いけれど、均質のものを作るのはそう簡単にはいかない。特に大粒納豆を作るのは大変です。万遍なく納豆菌を入れていく必要がありますから。

    高野 大粒のいい物は本当に美味しいですよね。

    石塚 国産鶴の子大豆を使ったものなど、美味しいですよね。ただ、あれは「ご飯には合わない」とクレームが多いらしいです。小粒のほうがご飯に絡まりやすいですからね。

    高野 そこでクレームを入れるのもどうなんでしょう(笑)。


    (「新刊展望」2016年6月号より転載)

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