• 〈書評〉街・学校・土俵で繰り広げられる、それぞれの戦い  文・三村美衣

    2016年04月26日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当
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    林トモアキ『ヒマワリ:unUtopial World(1)』は、地味で可愛げのないヒロインがストリートファイトで勝ち進む、エロも恋愛要素もなしのバトル・アクションものだ。《お・り・が・み》、《レイセン》と続いた、精霊3部作の完結編だが、ファンタジー的な背景設定は抑えられており、本書から読み始めても充分楽しめる構成になっている。

    東京湾に建設された人工島新ほたる市で、武装グループによる大規模なテロ事件が発生。都市は破壊され、多くの人々が殺害された。それから4年、都市は復興し、前以上の活気を取り戻したが、しかし被害者の心には大きな傷跡を残したままだった。ヒマワリはその日、人々が抵抗する余地もなく虐殺される様子を目の当たりにし、無力感から全てに背を向け、以来、不登校になった。ところがある日、ラーメンを食べに出かけた彼女は、喧嘩に巻き込まれ、わけもわからないまま、勝負を挑んできた同級生を倒してしまう。なんとこの街では、ギャングたちのストリート・ファイトが合法ゲーム化され、莫大な賞金が動いていたのだ。ゲームの勝者は世界を支配する。強さを誇りたい、世界を変えたい、少年たちは様々な理由からバトルに参戦していた。そして無気力だったヒマワリも、戦いに身を投じ、生きる感覚を取り戻し始める。

    ヒロインがとにかく強い。育ちが曰くありげで、護身術を叩きこまれているのもあるが、勝負勘が良く、さらに勝つためには手段を選ばない。ギャングたちは自分よりも大きく、さらに精霊を召喚して戦うが、そんな特殊能力をもものともせずに挑みかかる。力への憧れと恐れがないまぜになった青臭い絶叫と、肉体的にも精神的にも凄まじい痛みを伴う描写に圧倒される。

    ヒマワリ:unUtopial World 1
    著者:林トモアキ
    発売日:2016年02月
    発行所:KADOKAWA
    価格:648円(税込)
    ISBNコード:9784041040416

    第22回電撃小説大賞を受賞した松村涼哉『ただ、それだけでよかったんです』も、たったひとりで世界に挑む少年の戦いを描いた作品だ。ただし敵は人ではなく彼らを取り囲むスクールカーストという意識の壁だ。

    岸谷昌也が「菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない」という遺書を残して自殺した。いじめによる自殺は、悲しいかな珍しいことではない。しかし加害者は1人なのに、いじめられていたのは4人、それもクラスの中心にいる人気者たちだった。いじめが発覚したのは自殺から1ヶ月も前で、その後、拓は学校や父兄の厳しい監視のもとにあったはずなのに。やがて自殺の背景に、生徒同士で他人の性格を数値化する「人間力テスト」が関わっていることが判明するが……。ギャグもエロも異能もなく、学校や家族の人間関係が淡々と暴かれていく、シビアで救いのない異色作だ。王道とはおよそかけ離れたこういう作品が受賞してしまうところも、ライトノベル新人賞ならではの面白さだろう。

    ただ、それだけでよかったんです
    著者:松村涼哉
    発売日:2016年02月
    発行所:KADOKAWA
    価格:594円(税込)
    ISBNコード:9784048657624

    シビアな作品が続いたのでほっこり系も1作。昨年創刊した講談社タイガから刊行された城平京(しろだいら・きょう)『雨の日も神様と相撲を』は、相撲好きのカエルの神様を祀る村を舞台に、相撲勝負と殺人事件の謎解きを絡めたユーモラスな青春小説だ。

    両親が他界し、刑事の叔父に引き取られて田舎の村にやってきた文季。村は相撲がさかんで、中学校でも相撲の授業が行われるほどだった。転校生の文季も、早々、同級生たちから相撲の勝負を挑まれる。実は文季の両親は大の相撲好きで、彼は幼い頃から相撲道場に通わされ、相撲どっぷりの生活を送ってきたのだ。小柄で体格が劣る分、戦略研究に長けた文季は、同級生たちの相撲指導をはじめ、やがてその噂を聴きこんだ大人たちにも相談を持ちかけられるようになった。そしてある日、村の神事を司る遠見家に呼ばれた彼は、家の庭で相撲に興じるカエルの神様たちからも、相撲を教えてくれと頼まれるのだ。とぼけた設定と語り口のまま、生け贄の風習にまで切り込んで行く手並みも鮮やかだ。

    雨の日も神様と相撲を
    著者:城平京
    発売日:2016年01月
    発行所:講談社
    価格:778円(税込)
    ISBNコード:9784062940108

    (「新刊展望」2016年5月号 「おもしろ本スクランブル」より転載)

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