• “入場料のある本屋”の登場から考える、これからの本屋の在り方

    2018年12月18日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 猪越
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    12月11日(火)に六本木にオープンした、入場料のある本屋「文喫」。オープン前日には、「本の持つチカラと場の在り方とは?」をテーマにトークセッションが行なわれました。

    当日は、ゲストに伊藤晃さん(株式会社リブロプラス/文喫 六本木 店長)、上條昌宏さん(株式会社アクシス/雑誌「AXIS」編集長)、森岡督行さん(株式会社森岡書店 代表取締役)、モデレーターに横石崇さん(&Co.代表取締役/Tokyo Work Design Weekオーガナイザー)を迎え、これからの本屋の在り方について語られました。

    今回は、そのトークの内容をお届けします。

    「文喫」についてくわしくはこちら
    “入場料1,500円の本屋”「文喫」の新しい試み 約3万冊を揃え六本木にオープン

     

    「文喫」は知識を浴びられるパワースポットのような場所

    まずは横石さんからゲストの3人に、「文喫」の第一印象について質問がありました。

    最初に語ってくれたのは、昨年の8月、「文喫」というネーミングが生まれる場面に立ち会ったという森岡さんです。名づけ親は、同店のプロデュースを担当するスマイルズの代表取締役社長・遠山正道さん。森岡さんと文喫の立ち上げに携わった関係者が、「これからの本屋はどういうことをやったらおもしろいか」と語り合っているときに発せられたのが「文喫(ぶんきつ)」でした。森岡さんはその響きと字面に、「何かが始まった」という印象を持ったといいます。

    続いては、「アクシス」に勤めて20年になるという上條さん。会社は同店から徒歩7分の場所にあり、当初、書店営業を担当していた上條さんは、この地にあった青山ブックセンターにしばしば納品のために訪れていたそうです。「自分の知識は本から集まっているものが大半なので、もう一回そういうものを浴びられるパワースポットのような場所ができてうれしい。これからは仕事の帰りに1、2時間寄り道したい」と喜びを語りました。

    文喫の伊藤店長は、来店客の目線で同店を見たときに、「本と人が1対1で向き合える時間と環境が整っている」と感じたそうです。「大人になると、本を読む時間や環境を整えることが難しくなりますが、ここだったら何時間でも本を読んでいられるなという印象を受けました」

    そんな伊藤店長の“お気に入りポイント”は、窓から六本木ヒルズが臨める一人用のソファー席。「横の机に自分のキャパシティを超える本を積んで、夕方から読んでいたら、いつの間にかうつらうつら寝てしまった。閉店時間になって、“お客様、時間ですよ”と声をかけられて目を覚ます。これってすごく幸せな時間だと思いませんか?」とおすすめの使い方を提案していました。

    ▼ゆっくりくつろげる、一人用のソファー席が複数設けられています。
    (左から)伊藤晃さん、横石崇さん

     

    記憶に残る、本との出会い方、出会わせ方

    次に、「本を取り巻く環境が大きく変わろうとしている今、改めて本の持つチカラ、価値が問われているのではないか」とセッションテーマに言及した横石さん。テーマにちなみ、ゲストの記憶に残っている「本との出会い方、出会わせ方」について問いかけました。

    「1週間、1冊の本だけを売る」という特色ある本屋を営む森岡さんですが、話してくれたのはお子さんとの「個人的な体験」。「私は娘が2人いて、6、7年前までは本屋で一緒に絵本を買っていました」。子どもの成長に伴い、最近はその機会もなくなったといいますが、「いまにして思えば、その時間はかけがえのないものだったなと思います」。

    tしみはもちろん、「自分もこの絵本を家族に読んでもらったな」と思い出を振り返る時間でもあったそう。

    そんな「体験」には「代えがたいものがある」と語る森岡さん。スマイルズのクリエイティブ本部長・野崎亙さんと、昨今のキーワードである「消費から経験へ」の次には「文脈」が来るのではないかと話したことに触れ、「体験に、夢とか希望が付されているとさらにいいんだろうなと」。本を選ぶ時間を豊かにする文喫が、「これからの書店の在り方の、夢や希望の一つになってくれたらいい」と期待を寄せました。

    続いて上條さんが、「本屋で出会った本によって、自分の人生が大きく変わったケース」として2つの体験談を披露しました。

    「そのひとつがまさに僕が編集している『AXIS』という雑誌。日本にいたときはよく知らなかったのですが、留学先のパリで日本語が恋しかったときに、サンジェルマンのラ・ユンヌという書店で見つけました。ほかにもデザイン誌や建築誌はたくさんあったけれど、『AXIS』は活字がたくさんあったのでむさぼるように読んで。そこで自分とデザインというものが結びついたんです」

    「もうひとつは、ここにあった青山ブックセンターで手にした『ウスケボーイズ』という本。今年の10月に映画が公開されたのでご存知の方も多いと思うんですけれど、麻井宇介さんというメルシャンの工場長だった方がいて、彼の薫陶を受けた若者3人がワイン造りに取り組んでいく姿を描いたノンフィクションです。彼らはぶどう栽培からはじめるのですが、ものづくりに自分の身体や自然が合わさったときの物語を読んで、ぶどう栽培をやりたくなりました。つまりこれはこの先の人生の転機になった本。ぜひ実現したいですね」

    いずれも心に余裕があるときに出会ったので、文喫に来るときはその余裕も一緒に持ってきて、いろんな本と出会いたい」と語る上條さん。入場料の1500円についても、「ちょうどバーに一杯飲みに行くような感じで、いい価格設定なのでは」と語りました。
    (左から)森岡督行さん、上條昌宏さん

     

    棚の中で、自由に、本の“流れ”を感じてほしい

    1点につき1冊、合計3万点の本が揃えられている文喫。その陳列方法について伊藤店長は次のように説明しました。

    「棚は、テーマ別の、版型にとらわれない並べ方になっています。棚ごとにジャンルは決まっていて、普通はジャンルの中でさらに細かく分類されているんですけれど、当店ではあえてそれを取っ払っているので、テーマの中でお客様にこういう流れなんだなと判断していただければ。そういう自由や多様性がある本屋になっていると思います」

    そんな文喫を、森岡さんは「世界でもまれな本屋」なのではないかといいます。

    「私は昭和生まれなので(笑)、昔は本屋で立ち読みをしているとハタキをかけられる、というイメージがありました。最近のカフェが併設されている書店でも、つい本に没頭して、コーヒー1杯で1時間くらい読んでいると罪悪感がある。それなのに文喫は、さきほど伊藤店長が寝てもいいとおっしゃっていましたけれど、長居してよくて、しかも飲み物がお替り自由って意味がわからないですよね(笑)。しかもその中で楽しさを見つけられる工夫がいたるところにある。それが文喫の特徴なのではないでしょうか」

     

    “入場料のある本屋”はチャレンジのひとつ

    最後にこれからの書店や文喫に期待することについて聞かれると、上條さんは「個性があって品ぞろえが良くて、思いを持った人たちが作っていく書店というものは、まだまだ世の中に存在する意味があると思います。そういう書店があるかどうかで町の文化レベルは変わってくるし、特に子どもたちにはおもしろい本がたくさんあるということを知ってほしい。ただ文喫が、フランチャイズみたいにあちこちにできてもおもしろくないので、思いを持った書店がポツポツと広まっていってもらいたいなと思います」と回答。

    伊藤店長は、「書店はいま、どこも血のにじむような営業努力をしていると思います。そういった中で、入場料を取る書店というのはひとつの提案で、チャレンジ。ほかのアイデアでやってやろうという書店が、どんどん増えていけばいいですね」とコメントしました。

    森岡さんが期待することは、次のふたつ。「ひとつは先日ある百貨店に行ったんですが、トイレやエスカレーターの周りの椅子で、お父さんが休んでいる光景がありました。せっかくのハレの場で、ちょっと残念だなと思うんです。百貨店の中に文喫ができたら、喜んでくれる人がいっぱいいるんじゃないでしょうか。休む場所があって、そこに本があって、さらに子どもが遊ぶスペースがあったりしたらうれしいですよね。そういう展開の仕方もあるのではないかなと思っています」

    「もうひとつは、町の本屋で本を買うことが非日常になりつつある中で、入場料制の文喫が、日本の六本木で生まれた。文喫はもしかしたら、世界中に波及するような力があるかもしれない。何年後、何十年後かに世界に誇れるような、そんな展開をしていってくれたらいいですね」

    最後に横石さんは、「“文化を喫する”から名付けられた文喫ですが、そこには文章や文学、文脈を喫する、味わうことも含まれているのかなと思いながらお話を聞いていました。これからこの場所は、情報発信基地として、みなさんで一緒に作る場所になっていくと思いますので、みなさんで盛り上げていけたらいいなと思います」と語り、トークセッションは幕を閉じました。

    文喫
    ・〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
    ・営業時間 9:00~23:00(L.O. 22:30)※不定休
    ・Tel.03-6438-9120

    ・席数 90席
    ・電源、Wi-Fiあり(閲覧室・研究室・喫茶室のみ)
    ・飲食可(閲覧室・研究室・喫茶室のみ)

    bunkitsu.jp




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