カレーには「サイエンス」「カルチャー」「ノスタルジック」の3種類ある―「curry book project」vol.3レポート(後編)

2017年04月06日
本屋を歩く
ほんのひきだし編集部 浅野
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「東京カリ~番長」の調理主任でカレー研究家の水野仁輔さんが、「カレー本のベストセラー」を生み出すべく、敏腕編集者と本の企画を考える「Curry book project」。

今回のテーマは「あなたのカレーの思い出を教えてください」。第1弾のビジネス書、第2弾の実用書に続く第3弾では、文藝春秋の浅井茉莉子さんとともに、「文芸」の切り口から本の企画を考えていきます。

レポート前編はこちら

 

カレーには「サイエンス」「カルチャー」「ノスタルジック」の3種類ある

水野仁輔(以下、水野):せっかくなのでイベント後半はカレーの思い出を聞いていきたいんですけど、その前に僕は、カレーって大きく分類すると「サイエンスカレー」「カルチャーカレー」「ノスタルジックカレー」の3種類あると思うんです。

今回皆さんが食べたビーフカレーは、スパイスの選び方はインド料理がベース。具をビーフにしたのは、日本では牛肉が一番メジャーだからです。これがインドと日本を足した「カルチャー」の側面。

次に牛肉は、昨日の夜に2時間、表面がふつふつとなるまで蓋をしないで煮込みました。それは、これが一番おいしくなる方法だからです。煮込んで、火を止めて、一晩寝かすと味が戻る、その後もう一度ベースのソースと合わせて煮込む、そして覚ます……というのを繰り返しているんですね。これには「サイエンス」のテクニック、調理科学上おいしくなる方法を使っている。

浅井茉莉子(以下、浅井):なるほど。

水野:それでね、サイエンスとカルチャーは、こちらからアプローチができるんですよ。サイエンスとかカルチャーの側面からは、僕は今までの知識や経験をもとに、その人にとって一番おいしいカレーを探ることができる。

ただ3つ目の「ノスタルジックカレー」だけは、手に負えないんです。僕が浅井さんから「エチオピアのカレーが好きだ」と聞いたにも関わらず、それを作らなかったのは、浅井さんがエチオピアのカレーを好きな理由に、ノスタルジックな何かがあるかもしれないと思ったからなんです。

浅井:そうだったんですか!?

水野:エチオピアみたいなカレーを作る方法は知っているけど、好きな理由がノスタルジックなところにあったら、「全然違う」「こういうのじゃない」と思われる可能性があるなって。立ち入れないし、聞いても再現できないからやめたんです。

浅井:記憶の中のカレーには勝てない、と。

水野:説明できることには限界があるのかもしれないですね。でも「ノスタルジックカレー」は、下手するとどっかの1人にしか響かないかもしれないけど、同じようなノスタルジーを感じたことのあるかなりの数の人に届く可能性があるわけじゃないですか。

僕はカレーっていうモチーフで、一番化ける可能性があると思っているのが「カレーの思い出」なんです。これは調理科学とか食文化とかを超越したところにあるので、それが面白くって。

イベントをやる度に思い出をアンケートで教えてもらってるんですが、これって本当に面白くて、ものによっては心を打つこともある。こういうのをモチーフに、誰かが小説を書いたらいいんじゃないかって思いますね。見る人が見たら、ネタの宝庫だなって。

浅井:水野さんが書いたらいいじゃないですか(笑)。

 

皆ひとつはきっとある「カレーの思い出」

水野:今日はいくつか読んでみるので、「いけそうだな」「書いてほしいな」とか、思いついたらコメントをもらってもいいですか?

浅井:はい。

幼稚園の月一のカレーパーティーのためのニンジンを、うさぎの餌だと思って5、6本あげちゃって怒られた。そして泣いた。年中の時の思い出です。

浅井:これいい~! 短編小説にできますね。

水野:じゃあ、これはどうでしょう。(小説には)できないかな。

「自分は味音痴なんじゃないか」と悩んでいます。それは、食べるカレーがみんなうまいんです。

浅井:へえ~~。

水野:これはコメントのしようがない感じですね(笑)。

小学校の頃、年に一度、冬に校庭で焚き火をしながらカレーを食べるという炊き出しのイベントがありました。私はそれが大好きで、毎年寒空の下であったかいカレーを食べるのを、心の底から楽しみにしていました。

小学校3年生の時の炊き出しで、事件が起こりました。私の食べていたカレーに、枯れ葉が混ざっていたのです。神経質だった私は、虫が入っているかもと思い、手をつけられず泣く泣く家に帰りました。

その2年後、林間学校に行った時に、真実を知りました。同じ班の人とカレーを作るという実習があったのですが、その時、ある女の子が「これを入れるとおいしくなるって、お母さんに言われたの」と、ある物を見せてきました。その瞬間、私は驚きました。それは、2年前の炊き出しで私のカレーに入っていた枯れ葉でした。実は枯れ葉と思っていたものは、ローリエの葉っぱだったのです。一人勝手にすっきりした私は、順調に皆とおいしいカレーを作り、先生や他の児童たちから、「この班のカレーが一番おいしい」と言ってもらえたのが嬉しかったです。

浅井:癒されますね。やっぱり、子どもの時の話が多いですか?

水野:そうですね、多いです。……あ、これは本当に、当時泣きそうになったやつです。

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