校閲者は、作家や編集の“仲間”なのか?「地味にスゴイ!?校閲ナイト!」レポート【後編】

2017年03月01日
本屋を歩く
ほんのひきだし編集部 浅野
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2016年12月13日(火)に文禄堂高円寺店で行われた、「地味にスゴイ!?校閲ナイト!」。

レポート前編では、『校閲ガール』は全編ミステリー小説になるかもしれなかったという驚きの誕生エピソードや、ドラマ「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」の舞台裏などが語られました。

レポート後編では、実際に校閲されたゲラが登場。「ドラマでやってたあれ、本当にやってるの?」などの素朴な疑問も解決されていきます。

前編はこちら

 

実際に校閲されたゲラを見てみよう

宮木:今日は平凡社という出版社から出た、『砂子のなかより青き草』という清少納言を書いた小説のゲラを持ってきました。『校閲ガール』のは処分してしまったので。この時の編集さんは丁寧な方で、校閲さんからの指摘について、さらに自分で吟味して、いる・いらないを判断したり、詳しくしたりしてくれてるんですね。それで、私がそれを活かすかどうか、赤を入れると。

柳下:僕は作家さんと普段会うことがないので、初稿で多めに指摘を出します。それがどこまで反映されるかを見て、それ以降はキャッチボールするというような感じですね。指摘については、「本来は、校閲の書いたものを編集が全部転記するのが正しい」と聞いたんですが、実際はどうですか?

岩橋:私は、本一冊分のときは、転記の時に絶対にミスが起きると思っているので、いらないものは消しゴムをかけたり、補足を入れたりして、校閲者さんの鉛筆に重ねて記入することが多いです。

柳下:ああ、消しゴムはありがたいなあ。僕らは作家さんに直接お会いしないので、(指摘する際は)もちろん失礼のないように書くんですけど、たまに指摘されること自体にご立腹されることがありまして。阿吽の呼吸というか、編集さんは作家さんのことをよくご存知だと思うので、いらない指摘は消していただいた方がありがたいんですよね。

――今日は鴎来堂から、校閲グッズも持ってきていただいています。

柳下:例えば「級数表」。フォントの大きさを確認するためのツールですね。

宮木:これ、私も初めて見ました!

柳下:ゲラにこの四角い枠を重ねて、大きさを見るんですよ。何級、というのが大きさの単位ですね。この級数表はうちで作ったものなんですが、9級、10級、10.5級、11級、11.5級、12級、12.5級というふうに、書籍でよく使われるフォントのサイズが0.5級刻みになってるんです。

校閲者で普通の級数表を使っている方は、きっと「この辺が0.5刻みだとすごく便利だな~」って内心思ってると思いますよ。このあたり、よく使うのに0.5刻みじゃないシートがあるんですよね。これ、分かってもらえるかなあ(笑)。

あとは左上にピッと線が引いてあるんですが、これを使うことでかぎ括弧の“二分下げ”が非常に拾いやすくなるんですよね。……そういう細かいポイントも詰まった級数表です。今日は文禄堂高円寺店限定で、特別に販売してます。

――校閲と校正の違いって、何なんでしょう?

柳下:現場では相当まざっていて線引きが曖昧ですけど、厳密には「1つ前のバージョンと今のバージョンを見比べて100パーセント直っているか」を確認し、ミスなしの100点を取るのが「校正」。校正されたもの中から、間違いがないか探す、見つけていくのが「校閲」ですね。

――校閲って、している時はどんな感覚なんですか? つい読んじゃったりしないんでしょうか。

宮木:それはただの読書だよ~(笑)。

柳下:本当にそうで、「面白いと思ったら失敗だ」と思ってますね。あくまでクールに、面白いなとは思いながらも、「うんうん、面白いね」と自分をあしらいながら処理している感じです。

――ドラマを見ていると「校閲の人って、こんなこと本当にやってるの?」と思ったシーンもあったんですが、いかがですか? 例えば建物の模型を作るところとか、言葉一つ探しに青森へ行ったりとか。

柳下:リアルな話であれですけど、それはやっぱり費用対効果で、やった方がよければやります。でも、例えば建物に関していえば、たいてい図面を描けば済むことが多いんですね。ゲラの隅っこに描いて、それで終わることが多いです。

これ、世間には出せないですけど、校閲者って「自転車で二人乗りする時、体はこんなふうになってます」とか「ここに立っていたら動線がつながりません」とか、「この握り方では缶コーヒーの銘柄は見えません」とか、そういうのを説明するために何とか精一杯、絵を描くんですね。そういうゲラの隅っこに描いている絵をコピーして集めて、夜中に眺めてほっこりしてます(笑)。

(会場笑)

柳下:あとは、裏取りをする時に一般の方に聞くのもいいですが、標本が少ないと文責が取れないので、原則は公的資料しか使えません。なのでドラマに出てきたようなことは、実際は、やらない方が費用対効果は高いです。

 

作家・編集者・校閲者は“仲間”なのか?

――宮木先生は、校閲者に指摘されて腹が立ったことってありますか? 逆に、助かったこととか。

宮木:指摘されて腹が立ったことはないですね。字が汚いのは「読めない!」って腹が立ちますが。ありがたかったのは、何かのインタビューでも答えましたが、作中で歴史小説の校閲をするシーンがあって、昔私が書いた『ガラシャ』という作品のボツ原稿をそれに使ったんです。一度きちんと校正・校閲されたうえでボツになったものだったんですけど、その一節を取り出して使ったら「書かれている日付が間違ってますよ」と。

岩橋:「こういう資料もありますよ」という指摘ももらいましたね。

宮木:それで、その間違いを悦子の指摘としてまるっといただきました(笑)。あとは『砂子のなかより青き草』の時も、校閲の方がすごくたくさん指摘出しをしてくれて、ありがたかったですね。

――作家さんから見た校閲者って、「仲間」という感じなんでしょうか?

宮木:税関職員みたいな感じですかね。ヤバいものが入ってないかチェックする人っていう感じ。海から外に出たら、生産者はもう絶対に手を出せないじゃないですか。

柳下:僕は、建築士と構造計算士の関係だなと思ってますね。本当にその柱の数でいいのか計算して確かめる。品質管理というか。

岩橋:宮木先生はデビューされるまで校閲を知らなくて、「そういう人がいることを知って、色んなことが書けるなと思った」とおっしゃってましたよね。

宮木:そうですね。たとえ全部指摘してくれなくても、1か所「ここはこうじゃないか」っていうのを出してくれるだけで、芋づる式に色んなことを調べるじゃないですか。歴史ものを書く時でも、資料によって違うことが書かれてあったりもするし、その糸口を見つけてくれるのが校閲ですね。そのおかげで(作品の幅が)広がったなと思います。

――編集さんと校閲さんの関係はどうでしょう? ドラマみたいな感じですか?

岩橋:ドラマだとシーンによっては敵対してますけど、基本的には「助けていただいてありがとうございます」ということに尽きますね。宮木さんがおっしゃったように作品の幅が広がるのもありがたいですし、もちろん編集者も調べますけど、専門的なことを見てくださるので。一つひとつの指摘出しに対して「ん?」と思うことはありますけど、それが校閲者と敵対することにはつながらないです。

柳下:ハンカチの用意、してもらった方がいいのかな(笑)。僕は編集者のことを理解者だなと思ってます。我々が作家さんと会うことは基本的にないので、我々を一番理解してくれるのが編集者だったりするんですよね。そういう意味で、パートナーだと思ってます。

岩橋:でもやっぱり間に入っていることで、ここ(編集者)がボンクラだと作家に意図が伝わらないので、時々「この野郎」と思われてるんじゃないかなって、ひやひやしてます。

柳下:いえいえ(笑)。編集者は、例えば〆切をどこまで交渉できるかが大事なんじゃないかなと思いますね。「年末進行」って言いますけど、忘年会さえなければ意外に普通じゃない?って思ったりするし。「この人、絶対入稿しないで飲みに行ってる」って思うことあるじゃないですか。そういう時は「ん?」ってなりますね(笑)。

宮木:本当に、年末進行中にSNSにお寿司の写真上げるのやめてほしい。

柳下:あとお肉ね。

宮木:こっちは働いてるんだよ~!って思いますね。

岩橋:作中にも登場しましたね。「悦子の研修メモ」としては逸脱しているなと思いましたけど、これはきっと宮木さんが書きたかったんだなと思いました(笑)。

柳下:そういえば作家と編集者ということでいうと、宮木さんと岩橋さんは仲が良いですよね。

岩橋:すごく楽しくお仕事させてもらってます。

宮木:仲は良くないですよ。

柳下:でも、岩橋さんに服をあげたりもしてるんでしょう?

宮木:編集者とは全員、お友達にはならないようにしてるんです。

柳下:編集者といっても、コミックと小説では関係性が違ったりしますよね。

岩橋:コミックの方が作家さんと編集者が濃密だったりしますね。

宮木:それも憧れますけどね。私は自分で「女性の編集者をつけてください」と希望しているんですけど、愛せる男性の編集さんがいたらいいのにとは思います(笑)。

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