• おいしいカレーを作るという「手段」の先にあるもの―「curry book project」vol.1レポート〈後編〉

    2016年10月12日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 浅野
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    8月15日に文禄堂高円寺店で行なわれた、まったく新しいカレー本を作るための公開企画会議「curry book project」vol.1。「東京カリ~番長」の水野仁輔さんと、日経ビジネスオンラインでチーフ企画プロデューサーとして活躍している柳瀬博一さんが、「新しくて売れるカレー本」のアイディアについて語っています。

    ▼レポート前編はこちら

    「カレーは好きだけど、本を買うほどは好きじゃない」新しくて売れるカレー本を作るには?―「curry book project」vol.1レポート〈前編〉

     

    カレーは「町のスナック」に似ている

    柳瀬:聞いていて思ったんですけど、カレーというのはチェーンはあるけれど、基本的にはどちらかというと(飲食店の)スナックみたいなものなんじゃないですかね。

    水野:スナックですか。

    柳瀬:都築響一さんという有名な編集者の方が、津々浦々のスナックを歩いてママやマスターにスポットを当てる『東京スナック魅酒乱』という本を出していらっしゃるんです。2010年に出た本なんですが、それを皮切りにテレビがスナックに注目し始めたんですよね。例えば都築響一さんが「スナックの分水嶺」「マーケティングされた東京(西東京)と地方都市としての東京(東東京)の境目」だとおっしゃっている湯島が、「ヨルタモリ」の舞台設定にされていたりとか。

    天国は水割りの味がする
    著者:都築響一
    発売日:2010年03月
    発行所:廣済堂出版
    価格:3,132円(税込)
    ISBNコード:9784331514436

     

    日本のスナックは、アメリカでいうところのグレイトフル・デッドである

    水野:なぜ、スナックなんですか?

    柳瀬:僕はインターネットとの相性の良さが、理由にあると思います。ここで『グレイトフル・デッドに学ぶマーケティング』の話をしますが、この本はきわめてスナック的な話なんですよ。

    グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
    著者:デビッド・マーマン・スコット ブライアン・ハリガン 渡辺由佳里 糸井重里
    発売日:2011年12月
    発行所:日経BP社
    価格:1,836円(税込)
    ISBNコード:9784822248529

    グレイトフル・デッドは、当時アメリカで一番売れていたロックバンドで、1970年代にはローリング・ストーンズよりもビートルスよりも稼いでいた。

    でも、日本ではメジャーじゃないんです。なぜかというと、彼らはライブで各地を回っていて、マスメディアへの露出が少なかったから。アメリカの、特にIT系の今のトップリーダーたちはいわゆる「デッドヘッズ(=熱狂的なファン)」だったんですが、インターネット系のメディアはグレイトフル・デッドをモデルにしているんですよ。

    日本だと、アーティストがライブをすることになるとダフ屋が出てきますよね。そして「あそこでは買っちゃいけませんよ」と取り締まられる。でもグレイトフル・デッドは真逆なんです。どんどんテープに録っていい。録音が許可されていたんですね。ただし条件があって、売り買いは禁止。無料で配れというのが条件です。

    その結果どうなったかというと、売り買いではなく、ファン同士がテープを交換するようになったんですね。マーケットがコミュニティとなって、グレイトフル・デッドは上手いテーパーを起用して、低コストでオリジナルのライブアルバムを作れるようになった。一方でファンは、普段は無料の粗悪なテープを聞きながらも、「上手いテーパーの録ったテープならお金を払っても欲しい」と思うようになるんです。これはインターネットの「まずはフリーでたくさんの人に触ってもらって、プレミアムにはそれなりの額をつける」というのと同じですよね。

    スナックというのは、いわばそれの「超ミニ版」なんです。都築響一さんの話で感心したのは、「スナックは、3年もったら店主が死なない限り潰れない」というものなんですが……。

    水野:逆に言うと、3年のうちにコミュニティができてるってことですね。

    柳瀬:そうなんです。スナックって、絶えずいろんなお客さんが来るのではなくて、常連のお客さんがついてくれて、小さなコミュニティができればそれでいいんですよ。口コミ評価サイトでお店を選ぶ人って多いですけど、スナックって実際、出てくる料理のほとんどは乾きものとか、近くのお店の料理だったりするでしょう。飲食店だけど料理は目当てじゃない。マスターやママに魅力があってちょっと可愛い女の子がいれば、それでいいんです。

    ちなみに、今日会場にスナックに行ったことのある方はどれくらいいらっしゃるんでしょうか。行ったことがない方、どんなイメージを持ってます?

    ――(観客)入るのに勇気がいるというイメージがあります。

    柳瀬:そうでしょう。スナックは点在しているから可視化されていなかったし、「ちょっと入りづらいな」と思わせることで、常連さんがくつろげるようにしてあるんだそうです。実際はそんなことなくて、「会員制」と書いてあっても入れてもらえることが多いんですけどね。都築さんは何百軒とスナックを回って、そのことに気付いたんです。

    ちなみに地方都市の「シャッター商店街」と言われるようなところにも潰れない業態のお店が3つあると言われていて、その一つがスナックです。他の2つは何だと思いますか?

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